ウェッジウッド「フロレンティーン」と「グロテスク文様」の話

ウェッジウッドでも特に有名なシリーズのひとつ、「フロレンティーン」。

ウェッジウッド「フロレンティーン」プレート18cm(食器レンタルはコチラ)

フロレンティーンが最初にウェッジウッドの記録に登場するのは、1874年のこと。
当時はボーンチャイナではなく、クィーンズウェアのパターンとして使用されていました。ボーンチャイナの図柄として使われるようになったのは1880年頃で、その後1935年にヴィクター・スキレーンが絵柄の修正をおこない、現在の「フロレンティーン」のデザインとなりました。

MEMO
ヴィクター・スキレーン
…Victor Skellern。1908-1966年没。ウェッジウッド在籍期間は1934-1965年。戦後ウェッジウッドのデザイナー、アートディレクターとして一つの時代を築き上げた。

さて、フロレンティーンで使用されているボーダーのデザインは、「グロテスク文様」と呼ばれるもので、人間・動物・植物を変化させ組み合わせたパターンとなっています。

1500-1512年ごろのグロテスク文様(画像:wikipedia)

イタリア語で「洞窟」のことを「グロッタ(grotta)」といいます。観光地で有名なナポリの「青の洞窟」はイタリア語で「Grotta Azzurra」。実はグロテスク文様の「グロテスク」は、この「グロッタ」が語源となっています。

Grotta Azzurra(青の洞窟) 画像出典:wikipedia

なぜ「洞窟」を意味する「グロッタ」が「グロテスク文様」の語源となったのでしょうか。その起源は、ローマ帝国の5代目ネロの時代にあります。

皇帝ネロは、西暦64年にローマの中心部に広大な宮殿(ドムス・アウレア)を建設。しかしネロの死後に長い間放置され、地下に埋もれて消滅してしまいました。

ドムス・アウレアは今もトラヤヌス浴場の遺跡やその周辺の公園の下に埋もれています。(画像:Wikipedia

それがルネッサンス期の15世紀末に偶然に発見されたのです。その時、まるで洞窟(グロッタ)の様な状況となっていたため、ドムス・アウレアの部屋と回廊が「グロッタ」と呼ばれるようになりました。

ドムス・アウレアの「グロッタ」(画像:Wikipedia)

ドムス・アウレアの「グロッタ」には、人、動物、植物などをモチーフとした、人から植物へ、魚へ、動物へと連続して変化する奇妙な装飾壁面が過度に施されており、そこから、この「グロッタで発見された古代美術」のことを「グロッタ式装飾、グロテスク装飾」と呼ぶように。また、このことから「グロテスク」という語は「奇妙・奇怪・醜怪・不気味なもの」を指す総称的な形容詞として使われるようになりました。

(ちなみに日本では「グロテスク」のことを「残忍・残虐的な」という意味として「グロ」とか「グロい」とかいった略語を使ったりしますが、元来の「グロテスク」には、「奇妙・奇怪」という意味はあっても、「残忍・残虐な」という意味はありません。)

ドムス・アウレアの「グロッタ」の壁面装飾(画像:sky tg24)
ドムス・アウレアの「グロッタ」の壁面装飾(画像:sky tg24)

ところでグロッタは、16世紀頃から「人間によって作られた人工洞窟」としての意味合いを持つようになりました。当時の貴族たちの間で、庭園に人工洞窟(グロッタ)を作ることが流行していたからです。

実は当時、庭園には3つの要素が求められていました。

一つ目は「健康」…そのため、庭園には必ず薬草園が作られました。
二つ目は「会話」…そのため、庭園内にはいくつもの散策路が作られ、散歩が重要なテーマとなりました。

そして、最後の三つ目が「驚き」。そのために庭園のあちこちに東屋(あずまや。休憩目的の簡素な建物)や回廊、そして「グロッタ」があったのです。

グロッタのある庭園は16世紀にヨーロッパ各地に広まりましたが、だんだんと仕掛け噴水を持った遊戯的な性格が強まっていきます。18世紀にイギリスでピクチャレスク(風景式庭園)が流行していたときにも、グロッタは多く見られたそうです。

MEMO
ピクチャレスク(風景式庭園)…風景画のように美しい庭園のこと。
新古典主義(ネオクラシカル)の影響で、イギリスでは「絵に描いたような美しい風景」に注目が集まっていた。その結果、イギリスでは新古典主義の時代に、風景画のように美しい庭園を作ったり、その景色を見に行くツアーが流行する。
食器デザインでは、ウェッジウッドの「フロッグサーヴィス」や、スポードの「ブルーイタリアン」に、ピクチャレスクの影響が見られる。

ドイツ・バイロイトにあるエルミタージュ宮殿のグロッタにある仕掛け噴水(画像:Hermitage Old Palace)

グロテスク文様は、バロック時代にはあまり用いられませんでしたが、新古典主義の時代に再び息を吹き返します。そしてナポレオン帝政時代の格式高い「アンピール(帝政)様式」やヴィクトリア朝時代を通し、どんどんと重厚な雰囲気を持つようになりました。

食器デザインで見られる「グロテスク」は、花飾りと小さく幻想的な人間と動物の像とを織り交ぜた、アラベスク的な装飾をシンメトリー(対称的)に配置するのが特徴。もうまさしく、フロレンティーンの世界観です。

フロレンティーンに描かれているグロテスク文様。

フロレンティーンには、「グリフィン」が守り神としてモチーフの中に描かれています。グリフィンは、鷲の頭と翼、ライオンの胴体を持ち、黄金を守護すると考えられていた空想の動物。新古典的なデザインを得意とするウェッジウッドならではの、重厚感と気品あふれるデザインになっています。

ウェッジウッドにとっても特別なパターンなのか、デザインが発表されてからの約100年の間に、ターコイズブルー、グリーン、ブラック、ブルー、サンゴ色、アイボリー、ルビー、ゴールドと、かなり多くのカラーバリエーションを展開してきました。

カリーニョでは、廃盤のブラックと、ポートランドの壺のバックスタンプ時代のターコイズブルーがレンタル可能です。是非ウェッジウッドの美しく重厚感のある世界観をおうちでご堪能ください。

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この記事を書いた人

加納亜美子

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。