吉備国(きびのくに) 瀬戸内の桃

桃の季節がやってきましたね。

私の住んでいる地域では、桃といえば白桃(はくとう)です。

JA岡山西オンラインショップより
1個数百円~1,000円ほどする高級果物。地元では家庭消費用のものが、リンゴの価格程度で購入できます。

そして今、白桃の王様である清水白桃(しみずはくとう)が店頭に出回ってきました。いよいよ夏本番だなー、ああ、またこの季節が巡ってきたのだ、と、懐かしくも何だか心浮き立つ瞬間です。子供のころ、部屋中がお中元のたくさんの桃で甘い香りに満たされ、夏休みに毎日、飽きるほど桃を食べていたあの光景が思い出されます。

桃の何とも言えない芳醇で甘美な香りは、なるほど桃源郷といわれるくらい天国を想像するようなうっとりとする香りです。東日本で見られる黄桃よりも、きめ細かな繊維でとろけるような食感と、乳白色の瑞々しい果肉、そして繊細で上品な甘さが白桃の特徴です。

岡山の桃づくりは、明治8年ごろから始まり、明治33年に中国は上海(シャンハイ)の実生から「離核水蜜桃(りかくすうみつとう)」を発見、翌34年に「白桃」が誕生します。日本では山梨の桃のほうが全国的にはメジャーでしょうが、山梨の桃は、明治33年に岡山の桃を苗を移植したのが、桃栽培の始まりだそうです。

9月の陶磁器de読書会では、夏目漱石『三四郎』をテーマに開催しますが、この作品の中にも重要な小物として水蜜桃が登場します。

8月末、三四郎が上京する汽車の中で相席になった広田(原書では廣田)先生が食べているのが、水蜜桃なのです。物語の流れで、廣田先生の登場は名古屋駅通過後ですので、おそらくこの水蜜桃は山梨の桃だと思われますが、明治41年を舞台にした『三四郎』で水蜜桃が登場することは、当時にしてはとても斬新で、いわば「新しい果物」だった、ということが桃の歴史から読み解けます。

このように、読書会では様々な角度から一つの作品を読み解き、味わっていきたいと思います。私も今『三四郎』を読みながら、皆さまとどんなお話になるか、とてもワクワクしています。

この記事を書いた人

玄馬絵美子

玄馬絵美子

薬剤師 / 「陶磁器de読書会」講師
カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局や病院で薬剤師として勤務し、現在子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは財務面を担当。カリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆、読書会を主宰する。
【これまでの実績】
全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。
新聞の文芸欄掲載多数。