ジャズエイジ(時代)に流行したアールデコ
絵画・ポスターでもカッコよさを追求した
今まで超簡単!シリーズで、陶磁器を知るうえで不可欠な芸術・美術様式について時代順にお話してきました。
ゴシック、バロック、ロココ、新古典、アールヌーボー(&世紀末芸術)ですね。
そして、最後に出てくるのが、アールデコです。
前回は、アールデコとは、一体何か?そしてその時代背景に迫ってきました。
今回は、具体的にアールデコの絵画・ポスターを見ていきましょう。
アールデコの代表画家はレンピッカ
アールデコを代表する画家といえば、レンピッカです。

タマラ・ド・レンピッカ「自画像」1925年
見てください!この自画像。世の中には、自信満々な女性の人物画というのは、ルブラン(マリーアントワネットお抱え画家)やエミーリエ(クリムトのパトロン)はじめ、いろいろといましたが、それでも、彼女らは優美でした。女性としての華やかな色合いがあったのですね。
しかし、このレンピッカはそのような優美さを描いていません。女性のクールなカッコよさ、というのが似合うようになったのが、まさしく1920年代のアールデコなのです。
なんていったって、車をドライブしているのですからね。自動車というのは、当時の最新流行です。男性に操縦してらもらうのではなく、女性自らが操縦するレンピッカの描き方は、あたかも「自分の人生は、時代の流れに乗って、(男性に頼らず)自分自身の力で生き抜いていく」という力強さが感じられます。
それもそのはず、ロシア帝国生まれのレンピッカは、ロシア革命のあおりを受けて、多くの白系ロシア人(社会主義の赤に対して、資本主義系上流階級の人間は白が象徴でした)が亡命したパリをはじめ、スイス、ニューヨーク、メキシコ、と自らの力で生き抜いていきます。
「シンデレラ実写版」のコラムでご紹介したクールビューティーの継母役のケイト・ブランシェットをそのまんま地でいくような、美貌の画家です。

タマラ・ド・レンピッカ
自分の手で自動車を操る女性のこの絵は、現代を生きる私たちがみても、ちっとも古臭さを感じさせません。今、私たち現代人が同じような格好をしても、違和感がないのですね。一つ前のアールヌーボー様式以前の絵画では、こうはいきません。すべてが「コスプレ」となってしまいます。
アールデコは、現代を生きる私たちと、感覚がほぼ同じになる時代なのです。
アールデコ絵画の特徴は平面的で濁色でシンプル
このレンピッカの自画像は、アールデコを端的に表現しています。
すなわち、今までの西洋芸術様式の伝統だった「装飾性」をかなぐり捨てて、全て「無地」で仕上げている点です。そうです、柄がないんです。絵の中に、レースや、文様や、そういった女性ならではの細やかな装飾を一切排している。これが、まず一つ目の特徴ですね。
もう一つが、色調(色のトーン)が「濁色」である点です。一つ前の時代のアールヌーボー絵画の代表的画家ミュシャの作品の色調が、「淡濁色で色量が小さい」(灰色がかった淡い色)であったのに対して、レンピッカは「濁色」(黒色がかった色)絵です。華やかで優美なロココ様式は、「明色」(はっきりとしたビビットな色)がメインでしたから、その辺にデザインコンセプトの違いというのが、よく現れてくるのですね。
これらの工夫のおかげで、アールデコのイメージである「男性的・都会的・モダン・洗練」のイメージが絵柄からちゃんとダイレクトに伝わっているのです。

そして、平面的でシンプルな仕上げも、アールデコをよく表現しています。
この絵も、1929年4月の雑誌「ヴォーグ」(高級ファッション誌)の表紙ですが、アールデコならではの「平面的・シンプル・濁色」です。今の「ヴォーグ」の表紙に飾ってもいけるようなモダンなデザインです。とても100年近く前の作品とは思えません。
日本にもアールデコの波は押し寄せた
1920年代のアールデコは、西洋文明と共に日本にも押し寄せてきました。

杉浦非水 「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」1927年(昭和2年) 愛媛美術館蔵
こちらは、大正時代に三越のポスターを描いたことで有名な杉浦非水の作品です。
ここでも、平面的、柄のないシンプルな無地、濁色のアールデコを感じさせますね。
私が驚くのは、この昭和2年の日本人の贅沢な身のこなしですね。とても、この十数年後に太平洋戦争でみんながモンペに名札付きの姿で竹やり訓練をしている姿が想像できません。
そうです、アールデコは、第二次世界大戦によって姿を消します。
そして、日本の美意識はアールデコに終焉を迎え、戦後日本は、かつて大事にしていた「美意識」そのものを置き去りにして、必死で戦後復興へと邁進していっていった、と美輪明宏さんが著書で嘆いています。
そういう意味で、現代の私たちは先人が出した、長い長い美術・芸術の様式の結論である「アールデコ」を超える芸術を見いだせずに、堂々巡りをしているようなこの戦後の芸術は、「次なる美意識」という宿題を解くことに手をこまねいているように私には思えます。
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