【第23回】ミュシャ「モナコ・モンテカルロ」鉄道の車輪を花で表現(4/5)

豪華列車でリゾートへ
ミュシャが描く新しいリゾートのかたち

はじめは、1回の連載で収めようと思っていた「陶磁器を彩る美しいモノたち」ミュシャ編。
気が付けばミュシャ展の導入から、ベルエポック、アールヌーボーの話をそれぞれしてしまい、気が付けば連載4回目となってしまいました。ここまで連載が長くなってしまいましたので、次回ははやりアールヌーボーの陶磁器のお話をして締めくくりたいと思います。タイタニック編と違い、連載を続けながら急に構成を考え始めたのですが、いやあ、やはり構成は初めから考えていたほうが良かったですね。「陶磁器を彩る美しいモノたち」のプロローグでもアールヌーボーの話をすることをあらかじめ宣言していたのですから、タイタニック編のようにきっちり構成を組んでおくべきでした。

とりもなおさず、今回は、いよいよミュシャの絵についてお話します。

現在、「みんなのミュシャ展」は、京都文化博物館で開催中です。(上下の画像は公式ホームページより)

京都文化博物館公式ホームページ

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今回は、そのミュシャ展で紹介されている「モナコ・モンテカルロ」です。
モナコとは、ご存知南仏の隣の小国。カジノなど観光で栄えるリゾート地です。
アメリカのハリウッド女優グレース・ケリーがモナコ王妃として嫁いだシンデレラストーリーは、ご存知の方も多いはず。私も大好きな女優さんです。

モンテカルロはそのモナコ最大の都市。そして、パリからモンテカルロ駅へ行くまでの鉄道、PLM(パリ・リヨン・地中海鉄道 Chemin de Fer de Paris à Lyon et à la Méditerranée)の広告のために作成されたのが、この絵なのです。1897年、ミュシャ37歳の作品です。

19世紀末のヨーロッパでは、鉄道網が急速に発達し、それまで特権階級(富裕層)でもなかなかできなかった娯楽「旅行」が、中流階級である民衆のもとにまですそ野がひろがってきました。そりゃそうです。陸地の長距離移動といえば、馬(馬車)しかなかった時代では、人々の大量輸送は困難であり、高コストでした。それが、鉄道により大量輸送のハードルがグンと下がったのです。画期的な機械化の波でした。

こうして、「鉄道に乗って、モナコのリゾートへGO!」という広告ポスターが作られたのですね。
しかし、ミュシャの絵はいかにも「鉄道に乗って、モナコのリゾートへGO!」という雰囲気のポスターでないところがミソです。

例えば、他の画家が描いたPLMの宣伝ポスター「モナコ」版はこんな感じです。

ユゴー・ダレジ「Monaco PLM Bains de er d’Eté et d’Hiver Thermes de Valentia」1890年

どうです?「モナコのリゾート感100%」なポスターでしょう?

しかし、ミュシャが描くモナコの海岸リゾート地帯は、限りなく背景の一部に埋没していて、圧倒的にその存在感を示しているのは、ローマ・ギリシア風の古典的な衣装を身にまとった女神のような女性、そして車輪を模している花輪です。

女性の周りを大きく縁取る紫のライラックの大きな花輪は、「車輪」と同時に、ミュシャのお得意の「光輪」の意味でもあります。そして、ライラックの花のほかには、女性の顔の周りに深紅のザクロの花、ダイアンサス(ひなげし)の花、そしてシクラメンの花が緩やかな曲線の茎を這わせながら流れるように配置されています。あえて、機械的な車輪を描かず、花に擬態化させて描くところがなんともミュシャらしいですね。

女性のうっとりとした上向きの表情も、とても斬新です。このような上を向いて恍惚とした女性をメインに据えた絵というのは、当時画期的な図柄だったことでしょう。この女性が上を向いている理由、それは上にある「MONACO MONTE CARLO」を読ませるためです。そして上の文字を読んだ目線は、そのまま流れるように花の茎を下って左下に落ちてゆき、広告文を読ませる仕組みになっています。

とても面白い、ミュシャならではの表現だということが、上のユゴーのポスターと比べてみてもお分かりいただけるかと思います。

そして、やはり特徴的なのは、ミュシャの色調ですね。現実の色調とほぼ同じようにしてある写真のようなユゴーの絵と比べて、ミュシャの色調は前回お話したように淡濁色(グレーがかった色)です。どういうことかというと、例えば緑の色が濃くないでしょう。薄い緑で、ライラックの紫も色が抑えてある。全体的に、色が薄いんです。これを専門的には、「色量が小さい」というのです。逆に「色量が大きい」と、ユゴーの絵のように鮮やかな色合いになります。

人々に「傑作」といわれるゆえんは、構図の美しさ、描写の美しさ、絵の雰囲気と配色が完全にマッチしている、という3拍子が揃っているからです。その点で、ミュシャの絵は3拍子揃ってるのですね。それが、絵に対して人々が「共感」を生むので、傑作となるのです。

個人的には、服のシワの線フェチの私としては、ミュシャの服のシワはもう垂涎(すいぜん)ものですね。美しい服のシワを見つけると、思わず鉛筆で描いて写し取りたくなる衝動に駆られるのです。私だけでなく、ミュシャの服のシワの描写は、日本の漫画界にも大いに影響を与えています。

次回はいよいよ、アールヌーボーの陶磁器をお話しましょう。

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この記事を書いた人

玄馬絵美子

薬剤師 / 「陶磁器de読書会」講師
カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局や病院で薬剤師として勤務し、現在子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは財務面を担当。カリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆、読書会を主宰する。
【これまでの実績】
全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。
新聞の文芸欄掲載多数。