【超簡単!美術様式の解説 #3】ロココは「ベルサイユのばら」です。

ロココは「ベルサイユのばら」。繊細でフェミニンで耽美

これまで、ゴシック様式とバロック様式についてお話してきました。

今回は、「ロココ様式」です。これは、どんな様式なのかすぐにわかります。
ロココ様式を私なりに分かりやすくいうと、「『ベルサイユのばら』の世界」

玄馬絵美子

以上。これにつきます。
これ以上、イメージしやすいロココ様式はありません。そういう意味でベルばらの描かれている時代、そしてベルばらが発表された少女マンガの1970年代もまた、ロココ調でした。

1970年代の少女マンガ小話(こばなし)

この、1970年代に突如として日本の少女マンガ界が何ゆえロココ調に回帰したかは省略するとして、あの時代の少女マンガ全体がロココ調になってしまったのには、個人的に苦々しい思い出があります。

というのも、私が幼児期を過ごした1980年代前半にはまだ、1970年代の名残がありました。となるともうですね、幼児用のぬり絵は全てあの、キラキラお目々のロココ調ドレスを着たお姫様なわけなのです。私は年端もゆかぬ4,5歳の頃から、もう既に自分の好みのスタイルは19世紀後半~20世紀初頭の様式でした。ですから当時から私は「なぜ、このような(ロココ調の)ドレスのお姫様を塗らないといけないのだ。」という葛藤があったのです。

玄馬絵美子

と言いながら、私は同年代の少女には珍しく、池田理代子さんのマンガは小学生のころよく読みました。ベルばら、オルフェウスの窓、エロイカ、エカテリーナ…。情熱的でドラマティックな作品に魅了されましたね。

ロココ様式は室内装飾と成熟した貴族の美

さて、このロココ様式、というのは室内装飾に用いられる様式です。例えば、家具、小物、壁紙、食器、絵画、服装など。そのため、建築にはもちいられません

「この建物は、バロック様式だ。」ということはあっても、
「この建物は、ロココ様式だ。」とはあまりいわないのですね。

そのため、ロココ様式のことを後期バロック様式、とも表現することもあります。

こういう区別は素人には分かりにくいところなのですが、専門書はそれがさも当然という風に書いてありますので、注意すべきポイントです。

そもそもロココ様式というのは、貴婦人たちのサロン文化が発祥なので、室内がメインなのです。ロココ様式の構成要素(モチーフ)というのは、ずばり、リボン・ストライプ・フリフリのレース・真珠・バラ・パステルカラー・ホワイト&ゴールドです。ロココの語源であるフランス語の「ロカイユ(貝殻状装飾文様)」の通り、帆立貝の意匠もよくあります。

バロックの、おどろおどろしいまでのひねって、うねって、のたうちまわる、の躍動感や迫力は影を潜め、非常にフェミニンで繊細なのがロココなのです。ちょうど、日本の平安時代のような雰囲気ですね。なよなよして、繊細で、それでいて耽美(たんび。ちょっとエロスが入った、妖しげな美しさのこと)。どちらも、貴族が栄えてピークを過ぎた頃の時代の産物です。貴族文化が熟れるとこうなるのか、ということですね。

カリーニョの食器で、ロココを見る

実際のモチーフがどう使われているのか、カリーニョの食器から見ていきましょう。

代表的なのが、アビランドの「ルーブ・シェンヌ」です。

ロココの特徴である、バラ・真珠・ホワイト&ゴールドなどが描かれていて、全体的にレースの様に繊細、フェミニンというロココのイメージがおわかりいただけるかと思います。

私のお気に入り ポンパレモール夫人の肖像画

ロココ美術の中で私が最も好きな絵画が、フランソワ・ブーシェの「ポンパドゥール伯爵夫人の肖像画」です。彼女は文学や芸術に造詣が深く、ルイ15世(マリーアントワネットの義父)に見初められて公妾(こうしょう)となります。公妾というと愛人と思うかもしれませんが、それよりもっと公的な立場で、国の重臣的な意味合いが強く、実際彼女は当時の政治にも大きく関与しました。

「ポンパドゥール伯爵夫人の肖像画」
(フランソワ・ブーシェ、1756年、アルテ・ピナコテーク蔵)撮影:カリーニョ代表加納 )

カリーニョ代表加納が実際にアルテ・ピナコテークに訪れたコラム記事はこちらのページをご覧ください。

「ローズ・ポンパドゥール」と呼ばれる薔薇の飾りに、繊細なレース、リボンの組み合わせという、この絵もまさにロココ調です。私は彼女の、知性の象徴である読書や手紙などの小物、そして品格のある顔つき(この顔がちょっとマンガ絵のようなところも気に入っています。)がとても好きです。背景が当時の高級品である鏡というところも、粋でオシャレ。流れるようなたっぷりとしたドレス生地を生かしたドレープ(ひだ)の美しい構図も、お気に入りのポイントです。

このドレスの「ローズ・ポンパドゥール」とエメラルグリーンの組み合わせ、愛陶家の方はピンときませんか?そうです。セーブルの陶磁器の色ですね。

それもそのはず、彼女は王立セーブル磁器製作所にも関わり、この絵を描いた宮廷画家のフランソワ・ブーシェもセーブルの絵付けをしたのです。

「墓石形の花器」国立セーブル磁器製作所、1759年。
上の肖像画と同時期に作られたものということがわかる。
玄馬絵美子

このように、陶磁器と美術、そして様式は密接に関わっていたのです。

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この記事を書いた人

玄馬絵美子

薬剤師 / 「陶磁器de読書会」講師
カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局や病院で薬剤師として勤務し、現在子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは財務面を担当。カリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆、読書会を主宰する。
【これまでの実績】
全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。
新聞の文芸欄掲載多数。