美女と野獣 童話史上最高のカップリング

「ボンヌ・グラース」を授かったベルと野獣は
コンプレックスを抱えたヒーローに対し
ありのままを受け入れ
呪縛から解放してくれるヒロイン

先日、ディズニー映画『美女と野獣』の実写版がテレビで放映されて、私は初めてこの映画を見ました。(もちろん、アニメ版は子供のころに見ました。)

いやー・・・。よかったですね。

何が良かったって、そりゃ豪華絢爛なロココ調コスチュームや、ロココ様式の調度品や、主演のエマ・ワトソンの知的な美しさは言うに及ばず。(ハリーポッターのハーマイオニー役の女性というのは皆さまご周知のとおり。役柄のベルもハーマイオニーも読書家の知的美人ですが、エマ自身も読書家です)
何より見どころといえば、アニメ版よりも1時間長い2時間ものにしたことによって、アニメ版でいろいろな矛盾や細かい違和感が全て払しょくされているということです。その作品構成の完成度に舌を巻いたのですわ。

ボーモン夫人の原作『美女と野獣』は中学生のころに読みましたが、それと比べても、つまり、原作・アニメ・実写映画の3作品比べても、今回の実写版が一番完成度が高かったですねー。

ヒーローの野獣が野獣になってしまった生い立ちのバックグラウンド、そしてヒロインであるベルもまた、生い立ちがていねいに描かれるようになって、二人の人物像に説得力が増したのですね。その上、野獣にも教養の下地があって、二人で知性的な会話が出来る。シェークスピアやアーサー王伝説の話ができる。「女なのに学問はいらん」時代の町娘ベルにとって、野獣との教養溢れる会話が、とても知的に興奮させられるものになるのですね。

実写版では、二人が愛をはぐくむ様子が、丁寧に説得力を持って描かれています

このところこそが、「シンデレラ」や「眠れる森の美女」との王子様との関係の大きな違いです。シンデレラ・白雪姫・眠れる森の美女系の王子は、一目惚れで結婚していて、果たして王子自身の人となりが本当にヒロインにふさわしいのかどうかなんてあんまり重要視されていないんです。とにかく、王子様だから幸せになるだろう、と。

けれど、この『美女と野獣』は古い童話にしてはとても珍しくちゃんとヒーロー・ヒロインが互いを認め合い、欠点を補いあい、そのうえで愛に導かれるのだというプロセスを踏んでいるわけなので、ギリシャ神話のプシュケとキューピットの愛の物語じゃないですけれども、童話史上、一番本当の意味で愛し合っているカップリングなんじゃないかと思いますね。

だからこそ、原書では仙女(魔女)がベルに「さあ、ご褒美をあげますよ」といい、(ペロー童話やグリム童話でよく出てくる、ここでいうご褒美とは、「ボンヌ・グレース」のことである、という見解を中学生時代に『ペロー童話のヒロインたち』(片木智年)で読んで、それが強く心に残っています。グレイス、つまり気高く上品な美しさのことですね)ラストの締めくくりが「二人は本当に幸福に、末永く一緒に暮らしましたが、それというのもその幸福が、二人の立派な心掛けから生まれたためでした。」となっているのです。

今回の実写版では、そんな二人の本当に愛し合う気持ちが映像に反映されていて、アニメ版では、野獣が美しい王子に姿が戻ってから初めて二人はキスを交わしますが、実写版では野獣の姿のまま、ベルはキスをします。この演出の違い、何でもないようで結構大きいです。

うーん。やっぱり、私はこのカップリングパターン3のカップルが好きのなのですよ。詳しくは私の個人ブログ「私の読書遍歴」のカップリングパターン論を読んでくださればいいのですが、このカップリングは、「コンプレックスを抱えたヒーローに対し、ありのままを受け入れその呪縛から解放してくれるヒロイン」なのですね。コンプレックス、つまり「野獣」をそのまま受け入れてくれ、解放してくれるベル、という構造です。

彼らが悉く計算できるタイプでなく、不器用にしか生きられないのは、その何よりの証明である。それを感じ取ったヒロインが、そんな驕慢な彼らをありのまま受け入れることで、解放へと導くのだ。この無償の愛には本当に胸を打つものがある。そしてこのヒロインの特徴は、皆それぞれにアップスタンディングした人間だということだ。

個人ブログ「私の読書遍歴」より

いやー。まさにこの二人のことですよ。私が大好きなカップリングですね。

この『美女と野獣』の原書は、ボーモン夫人によって1757年に発表されています。そうです、ロココ全盛期です。今回は思わずカップリングについて熱く語ってしまいましたが、またボーモン夫人の『美女と野獣』についても、ロココ様式を交えながらお話したいですね。

この記事を書いた人

玄馬絵美子

玄馬絵美子

薬剤師 / 「陶磁器de読書会」講師
カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局や病院で薬剤師として勤務し、現在子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは財務面を担当。カリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆、読書会を主宰する。
【これまでの実績】
全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。
新聞の文芸欄掲載多数。