こんにちは。カリーニョ代表の加納です。
前回のコラムで、4冊の書籍を読了した後、「ウェッジウッドの創業者ジョサイア・ウェッジウッドと重なる点を多く感じる!」ということをご紹介しました。
(1)『森村市左衛門の無欲の生涯』(砂川幸雄著,1998年)。
(2)『ウェッジウッド物語』(日経BP社,2000年)
(3)『岩波講座 世界歴史22 産業と革新―資本主義の発展と変容』内の「模倣と着想 ―J・ウェッジウッド、森村市左衛門、もう一つの産業化」(87-107頁,鈴木良隆著,岩波書店,1998年)
(4)『現代語訳 西国立志編 スマイルズの自助論』(S・スマイルズ著,中村正直訳,金谷俊一郎現代語訳,PHP研究書,1996年)
※以下、本文では書籍名を省略して(1)~(4)で記載しています。
今回は本題です。
(一通り書き終えてみましたが、本当自分自身の頭の整理用・覚書用のような感想文にってしまいました。。。いつかちゃんとした形で今回の感想をリライトしようと思います)
<再掲載>伝記を読むうえで大切にしているポイント
本題に入る前に、以前カリーニョのコラムで、ウェッジウッドの創業者ジョサイア・ウェッジウッドの伝記をまとめたことがありました。
今回紹介する書籍のうち、(1)(2)が「伝記」に該当しますが、上記コラムで紹介した「偉人などの伝記を読むうえで大切にしているポイント」が今回も役立つため、改めてこのポイントを再掲載します(ちなみにこのポイントの発案者?は、私の数万倍読書家の実姉・絵美子さんからのアドバイスです。笑)。
そのポイントというのが、伝記を読む際に、その人物が
①その業界の扉を開いた人(創設者)だったからスゴイ。
②その業界で、次々と画期的なアイデアをひらめいたからスゴイ。
③その業界で、最も技術・芸術性が優れてる王者的存在だったからスゴイ。
上記3つのどれに該当するからスゴイ(偉人)のかを、まず押さえておく、というものです。
このポイントを押さえておいて、常に頭に置いておくことが、実はとても大事。いわば、「知らなかった人物を知る時の、大まかな全体像の地図」になっているのです。
この3つの才能は、似て非なるところがあり、「で、結局この人は何がそんなにスゴイ人なの?」と一言でいう時に役に立つからです。
たとえば、
キュリー夫人は① ⇒ラジウムの発見から放射線の扉を開いた偉人
ナイチンゲールは② ⇒消毒衛生などのアイデアを次々に打ち出した
マザーテレサは③ ⇒弱者保護の王者的存在
といった具合です。
「偉人」軸でみる、森村市左衛門とジョサイア・ウェッジウッドの共通
さて、この「伝記を読むときのポイント」を森村市左衛門とジョサイア・ウェッジウッドに照らし合わせてみると、二人がともに①②に該当する偉人だということがみえてきます(※私の持論です)。
①新しい概念を持ち込み、②自国で新しい生地の陶磁器を開発したパイオニア
ふたりは、生きた時代は100年ほど違いますが(ジョサイアは1730-1795年没、市左衛門1839-1919年没)、彼らの伝記を読んでみると、自国が近代化を進めている時代に、製陶業の変化を担ったパイオニアだということがみえてきます。
まず、ジョサイアが活躍した18世紀のイギリスといえば、ワットの蒸気機関などが相次いで発明された時代です。そこでおきた産業革命という大きなうねりの中で生まれた「大量生産」の概念を、食器にもインスパイア(吹き込んだ)したのが、ジョサイアでした。
彼は、農民の手作業だった陶芸を、一代にして近代的な工業に発展させ、王侯貴族しか手にすることのできなかった陶磁器を、市民階級向けに量産することに着目したのです。
※ジョサイアの偉業については、過去にコラムでたっぷりと紹介しているため、本コラムでは割愛します。
森村市左衛門もまた、日本が200年以上続いた鎖国を解き、富国強兵の一環として産業の近代化などを狙った殖産興業を推し進めていた時代を生きました。
彼が持ち込んだ「新しい概念」は大きく2つ。最初の革命は、“独立自営”のスタンスで「民間による直輸出の日米貿易」に着手して、その扉を開いたパイオニアだということ。そして、日本において「西洋陶磁器と同じ水準の硬質純白磁器」を完成させ、量産化に成功したパイオニアであるということです。
日本政府が輸出奨励策として、莫大な資金を民間に無利子で貸し付けていた当時、市左衛門はかたくなにそれを退けて、政府には頼らず、自分たちの力で自立した経営を行う自主独立の初志を貫徹しようとしました。
その結果、政府の保護策に便乗して生まれた競合の貿易会社は相次いで閉業するなか、市左衛門は強靭な精神力と適切な判断力、それまでに培ったアメリカでの絶大な信頼によって見事にいくつものピンチを突破していきます。
そして、輸入超過なうえに不当な海外貿易で金の流出が絶えなかった日本において、国益となりえる輸出事業を成立させたのです。
市左衛門は自分たちは「利欲ということは毛ほども考えず、ただただ国が良くなるためにという精神、いわゆる挙国一致、岩をも突き通すの決心で事に当たってきたので、神が助けるのは当然かと思います」と、このことを結論付けているといいます。((1)78頁参照)
この直輸出事業を続けていく中で芽生えたのが、「日本でも、ヨーロッパのような純白の硬質磁器を作ること」でした。もともと日本では、17世紀初頭に有田焼を皮切りに磁器作りは西洋よりも100年早く進んでいました。さらに開国後の明治初期から、日本各地の窯元から、コーヒーカップなどの西洋磁器を模倣するような商品が輸出されていました。
しかし、市左衛門はアメリカとの貿易を通して、現地でのニーズは、「優れた西洋風製品」、つまり灰色がかった日本の磁器(西洋磁器を模倣した和食器)ではなく、西洋が理想とする純白の磁器を作る必要性を感じ、その生地作りに自らも関わるようになりました。
そして、日本初の国内産洋食器メーカーのパイオニアとして、現在も日本の洋食器メーカーを代表する存在となっているのです。
「時代と嗜好の先取り」で成功した両者
両者の伝記や、(3)の論文著者である鈴木氏の文章を通して、ふたりが「時代と嗜好の先取り」が非常に上手な人物だということを改めて感じました。
ジョサイアの場合は、なんといっても当時の英国窯業では、フランスやドイツ、東洋のブル―ホワイトなどを模倣したデザインが主流だった時代に、新古典主義のデザインを先取りし、それを独自開発した新素材の陶器に反映させて、時代を先取った機械化・量産化で一般市民層に広めていきました。
市左衛門の場合も、ニューヨークの「森村ブラザーズからの要求は絶対に尊重する。アメリカ人の嗜好を知り、趣味を理解し、流行を看破し、巧みに創作して、いち早く先取りする」というスタンスで、有田焼や瀬戸焼の日本陶磁器の生地とは異なる、新しい純白磁器を作り上げることで、日本の洋食器の可能性を見事に広げていきました。
時代の先取りをするだけでなく、それぞれが目標とする対象を再現することに成功したという点においても、両者は際立っていたのだと感じました。
「生い立ち」軸でみる市左衛門とジョサイアの共通点
市左衛門とジョサイアには、功績以外にもシンクロする部分が色々とあります。書ききれないのですが、そのひとつとして、生い立ちが挙げられます。ふたりとも
・そもそも、生きた時代が、自国においての産業革命期
・幼少期に片親が他界し、貧困を経験している。
・大病を経験しながらも12~13歳から仕事を始めている。
・心から信頼できるパートナーの存在があった
といった共通点がみられるのです。
特に最後の「心から信頼できるパートナー」は、彼らふたりが偉業を成し遂げるために非常に重要な存在だったことが、伝記を通してみえてきます(ジョサイアにとってはトーマス・ベントレー、市左衛門にとっては弟の豊や女房役ともいえる存在だった大倉孫兵衛)。
<番外編?>『西国立志編』から見る、市左衛門とジョサイアの共通点
いろいろと長くなりましたが、最後に両者の伝記を読みながら感じたふたりの共通点として、(4)『西国立志編』を取り上げたいです。
『西国立志編』は、前回のコラムでも紹介したように、S.スマイルズの『自助論』を翻訳した、明治時代の大ベストセラー。「天は自ら助くる者を助く」の言葉で有名な本です。
この本の中で、ジョサイアは「文明世界発展の英雄とすべき人物」と称されています。この本を市左衛門が読んだかは定かではないですが、彼がこの本に少なからず影響を受けているのでは?と思える節がいくつもあったので、それがなぜなのか?ということを今後もう少し掘り下げていくためにも、覚書として残しておきます。
たとえば、1909(明治42)年、市左衛門が70歳のときに日本陶器会社(ノリタケの前身)の社内誌に発表した「処世十戒」では、社員に対して「生きるための原則」として、「忍耐、親切、謙虚、恭敬(きょうけい。つつしみ敬うこと)、寛恕(かんじょ。心が広くて思いやりがあること)、無我、温良(おんりょう。おだやかで素直なこと)、公正、誠実、勤勉」が重要だと示しています。((1)208-211頁)
対して、13章で構成されている『西国立志編』の章タイトルには、
第1章 自助の精神
第2章 発明・創造により国家を富ませた偉人たち
第3章 忍耐力こそ成功の源泉である(※この章にジョサイアの紹介がある)
第4章 勤勉な努力と忍耐が成功を生む
第5章 いかにしてチャンスをつかむか
第6章 天才はどう作られるのか
第7章 誰もが成功して偉くなることができる
第8章 意志の持つすばらしい力
第9章 仕事に励むことが人格を形成する
第10章 金銭の用い方
第11章 自分自身の力で向上することについて
第12章 従うべき手本について
第13章 品行について、真の君子について論ず
という言葉が並びます。特に、第2章では
・勤勉の精神が人々と国家を発展させる
・労働は最善の教育の場である
・初志を貫徹した人が成功する
という話が述べられていて、これらは市左衛門が大切にしていた原則にも非常に通ずるものがあると感じています。
まだまだ学ぶ必要が多い明治前後の日本史
……ということで、今回読了した4冊から感じたことを記してみました。まだまだ文章がうまくまとまっていないと感じながらも、ひとまず一通り読み終えて、次の課題として
・市左衛門が課題とした「西洋磁器風の純白硬質磁器」が完成する前の19世紀末に作られていた輸出向けの日本陶磁器とは、具体的にどのようなものだったのか?
・市左衛門が刺激を受けた福沢諭吉をはじめ、当時活躍した人たちの思考をもう少し深く知ってみたい
そんなことを考えるようになりました。
…ということで、なんとなく不完全燃焼な今回の読書感想文はここでいったん強制終了して、次回の感想文へと続けていこうと思います。(すでに次の読書も進行中)
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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2022年アミーゴの読書感想文
1冊目:『森村市左衛門の無欲の生涯』(砂川幸雄著,1998年)
2冊目:『ウェッジウッド物語』(日経BP社,2000年)
3冊目:『岩波講座 世界歴史22 産業と革新―資本主義の発展と変容』内の「模倣と着想 ―J・ウェッジウッド、森村市左衛門、もう一つの産業化」(87-107頁,鈴木良隆著,岩波書店,1998年)
4冊目:『現代語訳 西国立志編 スマイルズの自助論』(S・スマイルズ著,中村正直訳,金谷俊一郎現代語訳,PHP研究書,1996年)
※1冊目~4冊目 前編「まえがき」 後編「本題」