『マイセン ―秘法に憑かれた男たち』マイセン誕生の秘話を描いた壮大なノンフィクション小説

毎日読書感想文を書くことをスタートして6日目です。
改めて感じるのですが、「書く」という作業は、間をおくと書けなくなり、連続して書くとスラスラいく。怠けると、しんどいのは自分・・・だから、今日は(お盆だし)休んでもいいかしらと思う気持ちを抑えながら、これもトレーニングの一つだと思い、更新しています。

陶磁史(食器の歴史)の中でも、とにかくドラマチックなストーリーを持っているのは、ヨーロッパで最初に磁器づくりに成功したドイツのマイセンの誕生時(1709年頃)だと思っています。

ビジネスにおいても言えることですが、ゼロから1を作る作業は本当に大変。ましてや指導者や師匠と呼べる人がいない中であれば、さらに大変なことです。

そんな中で、それを成し遂げたのが、マイセン。
今日おすすめする本は、そのマイセン誕生に関わった3人(実際には4人)の人物を中心に繰り広げられる壮大なノンフィクション長編小説『マイセン  THE ARCANUM ―秘法に憑かれた男たち』(ジェネット・グリーソン著(南條竹則訳),集英社,2000年)です。

マイセンの歴史を知るうえで、この本の右に出るものはないくらいの必読書です。

著者であるイギリス人のジャネット・グリーソンにとって初めての長編ノンフィクションの書籍だそうですが、刊行された当時はイギリスでベストセラーになりました。

この物語は、当時の大いなる謎の一つを解き、東洋のそれにも勝る磁器をつくり上げた3人の男の、信じがたいが本当の話である。
一人はヨハン・フリードリヒ・ベドガー ――黄金を求め、磁器を発見した錬金術師。だが結局、かれはその発見のために人生を犠牲にしてしまった。
いま一人はヨハン・グレゴリウス・ヘロルト ―― 冷酷かつ野心的な芸術家で、無比の輝きを放つ色彩と図柄を発展させたが、その蔭には踏み台にされた多くの才能ある助手たちがいた。
第三の人物は、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー―― 名彫刻家で、マイセン磁器を用い、新しい形の芸術を生み出した。
(9-10頁)

上記のベドガー、ヘロルト、ケンドラー、そして彼らをマイセンに集めたアウグスト強王を中心とした人間ドラマは、昼ドラ以上にドロドロとしていて、裏切り、妬み、盗み、逃亡……人間ってこれほどまでにも欲深く生きているものなのだと感じさせるものです。もう本当に「事実は小説よりも奇なり」の世界・・・

この中心人物は全員、この本の副題にもあるように秘法(磁器)に憑りつかれたかのように、磁器づくりに専念し、そして磁器作りの中で次第に人格にも変化が起き、人生が狂わされていきます。しかし、そういった磁器に憑りつかれるような人々がいなければ、ヨーロッパの陶磁史は大きく変わっていたと断言できます。

三世紀近く経った今日、磁器はもはや世の主立った科学者や権力者、哲学者の心を支配することはない。たいていの人間にとって、それは比類なき財宝ではなく、気軽にデパートで買ったり、結婚のお祝いにもらったり、ショーウィンドウに置いてあるのを何気なく眺めて楽しむもので、日常生活に溶け込んだ道具だ。

日頃食器をテーブルに並べ、コーヒーカップを口に運び、戸棚の人形を並びかえるとき、そうした物がどれも何かしらのかたちで、この3人の非凡な男たちのおかげをこうむっていることを思う人はまずいないだろうーーまた、磁器が黄金よりも貴重な時代があったとは。

上記は私がこの本の中でも特に心躍らされる文章です。
本当にこの文章がいうように、私たちが今、気軽に楽しんでいる洋食器には、何かしらで必ずといっていいほど、この本の中心人物たちのエッセンスが含まれています。それを知ると知らぬとでは、食器に対する見え方が180度変わってきます。

この本ではマイセンだけでなく、当時のドイツやオーストリアの政治背景がマイセン(アウグスト強王)側から描かれていて、たとえばマリア・テレジアも関わっていた7年戦争前後のマイセンがどのようになっていたのかなどの、興味深い描写もあります。

またマイセンから逃亡した人物が関わったことで知られるウィーン窯(アウガルテン)の歴史についても、かなり事細やかに説明されていて、マイセンだけでなく、ウィーン窯の歴史を知る上でも非常に参考になる本です。個人的には、それよりなにより、ヘロルトとケンドラーの中の悪いエピソードが面白くて大好きですけど。笑

まるでハリーポッターのように最初から最後まで、その世界観に引き込まれ夢中になって読めます。
いつか映画化してほしい!もしくはこの本を漫画化してほしいと強く願っています。誰か・・・お願いします!

【アミーゴの読書感想文】
6冊目:『マイセン  THE ARCANUM ―秘法に憑かれた男たち』(ジェネット・グリーソン著(南條竹則訳),集英社,2000年)

相変わらず良書に限って絶版・・・こちらも中古しか販売がありません。(以前は在庫が少なくて1冊5000円で売られている時期もありました。今は在庫が比較的多いので、チャンスですよ)

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この記事を書いた人

加納亜美子

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。