ボーンチャイナとは?歴史から紐解く「硬質磁器」と「ボーンチャイナ」の違い

今日は、とあるコラムの執筆依頼で、ウェッジウッドのロングセラー「ワイルドストロベリー」の撮影をしました。

普段、明るく画像を加工しがちですが、今回はあえて、無加工の写真も使いました。ボーンチャイナ独特の柔らかい質感を、自然な明るさで表現したくなったのです。

「ボーンチャイナ独特の柔らかい質感」と書きましたが、そもそもボーンチャイナとは何のことなのでしょうか。そして、ボーンチャイナの特徴・個性とはいったい何なのでしょうか。

以前使われていたウェッジウッドのバックスタンプ。「Bone China」の表記、見えますか?

そもそも「ボーンチャイナ」とは?

先に結論から言うと、ボーンチャイナとは、陶器や磁器のような、やきものの種類の一つ。「牛の骨(骨灰・こつばい/こっかい)」を混ぜて作られるやきものです。そのためボーンチャイナは、骨灰(こっかい)磁器ともいいます。

「ボーンチャイナ」と音だけを聞くと「Born China=中国生まれ」という意味に思えそうですが、正しくは「Bone China」。ここでの「チャイナ(China)」は、中国ではなく、「やきもの(磁器)」のこと。つまり、「Bone China=骨(骨灰)で作られた磁器」という意味を持つ言葉です。

ニッコーの工場視察のときに見せていただいた、ニッコーで使用されている骨灰。

「体を飾るのは宝石、館を飾るのは磁器」だった時代

3世紀頃に中国で初めて作られたとされる磁器は、その後朝鮮半島を経て17世紀に日本へ、そしてジャカルタを拠点にしていた東インド会社というオランダの貿易会社を経由して、ヨーロッパに輸出され、その「白くて、透き通るように薄くて、固い」やきものにヨーロッパの王侯貴族たちは夢中になります。

ドイツ・シャルロッテンブルク宮殿の「磁器の間」。

そして、どうにか自分たちの国で磁器が作れるようにならないかと、各国がこぞって研究開発を進めていき、そしてドイツの錬金術師ベッドガーにより「磁器作りには、カオリンという鉱石が必要」という磁器作りの秘密が解明され、1710年にドイツのマイセンでヨーロッパ初の磁器工房が誕生します。

マイセン誕生後は、「磁器作りにはカオリンが必要」という機密情報がどんどんと他国に漏れ出ていき、オーストリア、フランス、イタリアなど、さまざまな国でも磁器が作られるようになり、ヨーロッパの高級食器=磁器となっていきました。

カオリン(アウガルテンで撮影)

「どうしても磁器が作りたかった…」ボーンチャイナ誕生秘話

一方、大陸ヨーロッパとイギリスでは、まったく違った発展の仕方をしていました。というのも、イギリスでも「磁器作りにはカオリンが必要」という情報は入ってきていたものの、イギリス国内どこを探しても、カオリンが見つからなかったのです。

そんな中で1748年、ロンドンのボウという窯が、動物の骨を焼いて灰にしたものをやきものの原料に混ぜて焼くと、やわらかく、透明度の高い独特の輝きを持ったやきものになることを発見します。

これ、何がすごいかというと、今までやきものには、土とか石とか、いわゆる無機物で作られていたのに対し、「動物の骨」という有機物を混ぜた発想……きっと当時の世界中の誰一人として考えも及ばなかった材料かもしれません。

この時はまだ「牛の骨」ではありませんでしたが、これがのちに「ボーンチャイナ」の開発につながる技術となったため、ボウ窯は「ボーンチャイナの最初の窯」として知られるようになりました。

その後、1773年頃から中国がイギリスに対して制限貿易を行ったことで、中国磁器の輸入が激減しはじめます。そこで、どうしても自国で磁器を作れるようになるために、ボウ窯の築いたボーンチャイナの改良が進められていったのです。

そして試行錯誤が重ねられた結果、1790年頃にスポード窯の創業者であるジョサイア・スポード1世が、ついに牛の骨灰を混ぜることによって、素地をほぼ完ぺきな白磁に近づけることに成功します。さまざまな動物の灰で実験は繰り返されましたが、その中でも牛の骨が鉄分が少なく、それが器づくりに最も適していることを突き止めたのですね。

スポード1世は、志半ばで突然の死に襲われてしまいますが、その後彼の息子であるスポード2世が、それまで20%の割合で混ぜていた骨灰を、50%まで増加させていくなかで、実用可能なボーンチャイナの製造を実現させたのです。

一般的に25~30%以上の骨灰を含むものをボーンチャイナ、そしてスポード2世によって開発された50%以上の骨灰を含むものをファインボーンチャイナと呼びます。

1799年に完成したファインボーンチャイナは、その後この素地のうわさを聞き付けた当時の英国皇太子(のちのジョージ4世)が視察のために自らスポードの工場を訪れ、そこで一目でスポードのボーンチャイナを気に入り、すぐに王室に作品が届けられるようになりました。そして1806年、皇太子はスポードのボーンチャイナを「王室御用達」に任命したのです。

磁器には「硬質磁器」と「軟質磁器」がある

さて、磁器には、
・色が白い
・光を通す
・水を通さない

という特徴があります。

ボーンチャイナも、これらの条件に全て当てはまっています。しかし中国や日本、大陸ヨーロッパで作られていた磁器とは、そもそも原料も焼く温度も全く違います。

専門用語では、日本の伊万里焼やドイツのマイセンのようなカオリンによる磁器を硬質磁器(または真正磁器)と呼び、ボーンチャイナのように、カオリン以外を使った磁器を軟質磁器と呼びます。

このふたつの磁器にはさまざまな違いがありますが、代表例を2つあげると……

硬質磁器とボーンチャイナの違い① 色が違う

まず色が違います。同じ白い磁器といっても、ボーンチャイナは、あたたかみのある、やわらかい乳白色。それに対して、一般的な硬質磁器は、青みがかった白色をしています。ぜひこれは実物を見比べていただきたいものです。

硬質磁器とボーンチャイナの違い② 強度が違う

もう一つの重要な違いは、強度です。名称を見ると、なんとなく「硬質磁器のほうが硬そう」と思われがちなのですが、実際はボーンチャイナは、一般の硬質磁器に比べて約2倍以上の強度があるのです。

ウェッジウッド の公式サイトでは「ボーンチャイナ製のエスプレッソカップ4客で、高級自動車1台を支えられる」という驚きの実験結果を紹介しています。なかなか再現しようと思わない実験ですが(笑)、とにかくボーンチャイナには、それくらいの負荷に耐えられる強度があるのです。

出典元:ウェッジウッド ファインボーンチャイナ200周年
https://www.wedgwood.jp/ww/campaign/finebonechina200/

なぜそんなに強い?ボーンチャイナの強さの秘密

ボーンチャイナの強度の秘密は、材料となる骨灰そのものにあります。骨に含まれるカルシウムの化学反応によって、分子と分子の結びつきが非常に強くなり、生地に粘りが出てくるのです。

これに対して、一般の磁器はあまりにも固く焼きしめてあるので、それが衝撃に対してもろくなる原因になっています。

ボーンチャイナは、「東洋のものまね」を乗り越えた
イギリスならではの独創的なやきもの

このようにボーンチャイナは、磁器でありながら、ふつうの磁器にはない特別な性質を持っています。これは他のどんな西洋の国も、元祖の中国ですらも、まったく想像しなかった独創的なやきものだといえるでしょう。

磁器の後進国であったイギリスに生まれた、新しい発明。ここに至って、西洋は初めて、中国や日本磁器などの「東洋のものまね」を乗り越えて、独自のやきもの文化に達したのです。

硬質磁器を焼かないイギリス
ボーンチャイナを焼かない大陸ヨーロッパ

興味深いことに、今でも大陸のヨーロッパでは、若干の例外を除いてボーンチャイナは一切作られておらず、また逆にイギリスでは、硬質磁器は焼かれていません。

もちろん、どちらの磁器のほうが良いとか、高級だとか、そういった区別はありません。これらは「好み」というほかはないと思います。

……ちなみに日本では、どうなのでしょうか。

日本では、一般的に高級洋食器にはボーンチャイナがよく使われていますが、海外のお客様を迎える東京の来賓館(旧赤坂離宮)で使われている洋食器はボーンチャイナではなく、硬質磁器です。これもまた興味深いことだと思いませんか?

食器の見た目だけではなく、こういった素材のもつバックストーリーもまた奥が深いもの。

磁器のたどった歴史を紐解いてみると、文化や伝統の違いを垣間見ることができます。こういった歴史を知ることで、ボーンチャイナの見え方が変わってくるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

加納亜美子

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。