パリアン磁器とは?イギリス黄金期に誕生した無釉磁器の特徴と歴史

こんにちは。カリーニョの加納です。

先日、「神話で紐解く名画・陶磁器の世界」第2回目ポセイドン編を開講した際に、ベリークの「ネプチューン」シリーズをご紹介しました。

ベリークは、1875年にアイルランド北部の閑静な町「ベリーク」で誕生した、アイルランド地方最古の磁器窯です。

そんなベリークでは「パリアン磁器(Parian China)」と呼ばれる、気品ある大理石のような質感のある磁器で製品が作られています。

パリアン磁器で作られたベリークの「ネプチューン」(1965-1980年製)

このパリアン磁器に関して、講座での質疑応答の際に色々なご質問をいただきました。その回答も含め、今回改めてパリアン磁器がどんな磁器なのかをまとめることにしました。

パリアン磁器誕生のきっかけ

ときは19世紀のイギリス。
イギリス黄金期とも称されるヴィクトリア朝時代(1837-1901)は、過去の様々な美術様式が組み合わさった「折衷様式」が主流でした。そのひとつが、古代ギリシャ・ローマ時代のリバイバルであるネオ・クラシカル(新古典)様式。

新古典様式といえば、なんといってもウェッジウッドのジャスパー

グランドツアーを経験した貴族たちが持ちこんだ、古代ギリシャ的なエキゾチックな装飾品……特に大理石で作られた彫刻が貴族の間で人気を博します。

しかし19世紀半ばのイギリスで、大理石の彫刻を手に入れることができるのは、上流階級の人々だけ。そこで「大理石じゃなくてもいい!大理石っぽいもので十分だから手に入れたい」という人々向けに、「大理石”風”の陶磁器」の研究開発が進みます。

そして誕生したのが、大理石の質感に非常によく似た質感を持つ「パリアン磁器」でした。

パリアン磁器(画像出典:wikipedia)

「パリアン」という名前は、ギリシャ彫刻の多くに用いられる大理石の一大産地であった「パロス島」に由来する名前です。

パロス島の位置(googlemapより)
ルーブル美術館所蔵の「ミロノヴィーナス」(紀元前100年頃)もパロス島の大理石で作られています。(画像出典:wikipedia)

この磁器の誕生により、一部の特権階級の人々だけではなく中流階級の人々も、大理石と同じ美しさをもつ装飾品を手に入れることができるようになりました。

パリアン磁器とは?

では、パリアン磁器とはどういった磁器なのでしょうか。

パリアン磁器は、1845年頃にイギリスで考案された、長石を主成分とした無釉磁器です。非常に粘りがある材土で、それが複雑な造形表現の磁器彫像に向いていました。

MEMO:
磁器の分類に関しては、国や学者、陶磁器メーカーによってその定義が異なるため、カリーニョの講座内では、初心者向けに解説するために、磁器の分類を

・カオリンを含む「硬質磁器」
・カオリンを含まないその他の磁器を「軟質磁器」
(パリアン磁器などの無釉磁器、ボーンチャイナも軟質磁器に含む)

という2つに大別しています。

しかし厳密には、ガラス質のフリットを取り入れたパリアンを軟質磁器長石の割合が高くフリットが含まれていないパリアン磁器を硬質磁器と分類されます。

※参考サイト:
西洋アンティーク事典 
・福井大学の今井祐子先生の論文でも、パリアン磁器は「硬質磁器の一変種」と記載。(399頁)

硬質磁器と軟質磁器に関してはコチラ

パリアン磁器のレシピは各陶磁器メーカーによって異なります。
たとえばベリークのパリアン磁器の場合は「地中海産の磁器用粘土、クレスト長石、ガラスフリット」を混合して作られていて、スウェーデンのブランド、グスタフスベリで作られるパリアン磁器は「原料のうち1/3がカオリン、1/3がスウェーデン長石、1/3がイギリス産の長石(つまり2/3が長石)」で作られています。

ちなみに講座で使用したベリークの「ネプチューン」は、このパリアン磁器にラスター彩を施すことで、光沢のあるキラキラとした質感に仕上がっています。

パリアン磁器の歴史

パリアン磁器を最初に作った陶磁器メーカーに関しては諸説ありますが、最も一般的なのは、コープランド(現在のスポード)です。

1845年頃、コープランドは中流階級のニーズに応えるように大理石風の磁器を研究し、開発することに成功。その新素材を「彫像用磁器(スタチュアリー・ポーセリン)」と名付けました。

コープランドの彫像用磁器(画像出典:グリーブランド美術館)

その後、ミントン、ウェッジウッド、ウースター(現ロイヤルウースター)などでも同等の磁器が作られるようになり、瞬く間にアイルランドやスコットランドを含めた全英に製法が伝わっていきます。先述のベリークでも、1863年からパリアン磁器が作られています。

ちなみにこの新しい磁器に「パリアン」と命名したのは、ミントン。ミントンが名付けた「パリアン」が、1851年頃までに一般的に使われるようになったのです。(開発元のコープランドは長く「彫像用磁器」の名称を使っていたようですが。)

ミントン製のパリアン磁器(画像出典:pinterest)

MEMO:
ウェッジウッドはこの新素材をイタリアのトスカーナ地方にある採石場の名前にちなんで「カッラーラ」と呼んでいます。

ウェッジウッドのカッラーラ製の彫像(画像出典:pinterest)

イギリス国外でも人気だったパリアン磁器

1845年頃にパリアン磁器が誕生してから約50年間で130社以上がパリアン磁器製の彫像やフィギュア、食器などを生産し、パリアン磁器のピークを迎え、イギリス国内だけでなく、他の欧米諸国でも人気を博しました。1876年のフィラデルフィア万博では、セーブルの硬質磁器よりもより透光性の高いミントンのパリアン磁器のほうが、高い評価を受けたとか。

「大理石に次ぐ最高の素材」とも称されたパリアン磁器は、その美しい質感で多くの人々を魅了しました。

ちなみに日本でパリアン磁器を作られていないのかネットで調べてみましたが、どうやら2016年に日本で唯一パリアン磁器の原料を作っていた原料屋さんが廃業したとの情報が。

今回の講座をきっかけに、パリアン磁器に関してもっと情報を集めてみたいと思っています。また新しい情報が得られましたら、このコラムを随時更新していきます!

参考文献・WEBサイト

<論文>
「フランス陶芸とジャポニスムの関係 ー装飾技法を中心にー」(今井祐子著,2015年)
https://core.ac.uk/download/pdf/61365983.pdf

<WEBサイト>
西洋アンティーク事典:http://eglantyne.link/antiqueporcelain/
マンダリン・ダルジャン:http://www.antiquecup.com/museum/rwocester/rwocester.html
EFジュエリー(エインズレイ株式会社):http://ef-jewellery.net/shopbrand/ct35/
MOTHER SWEDEN:https://www.mothersweden.jp/gustavsberg-parian-overview.html
日本関税局:https://www.customs.go.jp/tariff/kaisetu/data/69r.pdf

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この記事を書いた人

加納亜美子

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。