【香りの器 高砂コレクション】展で学べる陶磁器の美術様式

こんにちは。カリーニョの加納亜美子です。

先日の東京出張の際に、時間を作って現在パナソニック汐留美術館で開催中の「香りの器 高砂コレクション」に行ってきました。

実は大学在学中にアロマテラピーにハマり、アロマテラピーインストラクターの資格を取得したり、また実家暮らしの時代には香道を習っていたり、香りに関することには以前から非常に興味を持っていました。ですので、今回の展覧会もとても楽しみに伺ってきました。

この展覧会の感想や今日ご紹介する内容は、以下のyoutube動画にまとめています。(約15分。前半5分で展覧会の感想、後半10分で美術様式の解説)

実は?youtuberデビューしました!チャンネル登録していただけると嬉しいです。

今回のコラムでは「動画を見るよりも、文章で知りたい」という方向けに?、この動画の中でも解説した、陶磁器の美術様式に関する解説を文章化しました。

「香りの器 高砂コレクション」展とは?

会場のパナソニック汐留ビルの前で撮影。

まずは「香りの器 高砂コレクション」展の概要をご紹介しますと、、、

この展覧会は、東京都の大田区に本社を構える日本最大の香料メーカー高砂香料工業株式会社が、長年にわたり収集してきた、「香り」に関する質の高いコレクションから、よりすぐられた約240点の作品を見ることができる企画展です。

第1章では「異国の香り」として、古代の土器からさまざまな国の香水瓶の展示、そして第2章では「日本の香り」として香道具や香木などが展示されていました。

第1章の一部作品は撮影&SNS投稿が可能ということで、今回のコラムでは、撮影可能だった場所・作品を撮影したものを掲載しています。

陶磁器の美術様式ごとのデザインの変遷が楽しめる!

※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

今回撮影してきた、第1章の陶磁器のコーナーでは、美術様式ごとのデザインの変遷を、一つの空間で見て楽しむことができました。

今までカリーニョのコラムやセミナーで、度々18世紀初頭にドイツのマイセンがヨーロッパ初となる磁器作りに成功したということをご紹介してきました。

この磁器の作り方はやがてヨーロッパ各地に広がっていくことになるのですが、それを機に、ガラス製品が主流だった香水瓶に磁器製の容器が新たに加わっていくことになります。

色絵香水瓶「若い娘を背負う修道士」(マイセン・18世紀)
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

特にロココ趣味が大流行した時代には、愛らしいフィギュアの香水瓶がとりわけ人気を博したそうで、マイセンを筆頭に、イギリスやフランス各地で、さまざまな磁器製の香水瓶が作られるようになります。

左:色絵香水瓶「木の実を採る親子」(チェルシー・18世紀)
右:色絵香水瓶「アルルカン」(チェルシー・18世紀)
「チェルシー」はイギリスの陶磁器窯。マイセン風の作品も沢山作っていました
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

ロココ趣味(ロココ様式)の陶磁器デザインの特徴

色絵雅宴文香水瓶ケース(18世紀)
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

こちらがロココ趣味の流行期に作られた香水瓶です。

この「ロココ趣味」という言葉。
ロココ趣味はロココ様式ともよく言われますが、「マリーアントワネットの世界」といえば、イメージがつきやすいでしょうか。

マリーアントワネット(1755-1793)
※画像出典Wikipedia
ポンパドゥール夫人(1721-1764)※画像出典:Wikipedia
本当は、ポンパドゥール夫人という別の女性が、このロココ趣味の全盛期を作ったのですが、そういうことはまた別の機会にお話するとして、、、

マリーアントワネットの世界ということで、イメージとしては、ちょっとなよなよしていて、繊細で、それでいて耽美。

「ぶらんこ」(J.H.フラゴナール・1767年頃) ウォレス・コレクション所蔵

そして、このロココの時代には「雅宴画」という自然の中で語らう恋人たちを描いた絵画が大流行します。

「シテール島への巡礼」(A.Watteau・1717年頃)ルーヴル美術館所蔵

その絵を描いた代表的な画家がフランソワ・ワトー(Watteau)という人物だったので、ワトー画(ヴァトー画)と言われることもあります。

雅宴画は美術絵画だけでなく陶磁器にもよく描かれていています。先ほどご紹介した香水瓶ケースも、、、

雅宴画が描かれていますよね。だからこれは「ロココ趣味だー」ってわかるのです。

時代は違いますが19世紀のマイセンの香水瓶も雅宴画が描かれています。
(色絵雅宴文香水瓶)※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

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新古典主義の陶磁器デザインの特徴

ロココの次の時代は「新古典主義」という美術様式が流行します。新古典主義の香水瓶も展示されていました。

左:女神天使文香水瓶 右:天使文香水瓶(ウェッジウッド・18世紀後半)
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

イギリスのウェッジウッドの香水瓶。
ウェッジウッドは、新古典主義を得意としているブランドです。

新古典主義のキーワードは「古代ギリシャ・ローマのリバイバル。古代ギリシャ・ローマ時代のデザインが18世紀後半に流行するんですね。

これはロココ様式を代表するマリーアントワネットがフランス革命で処刑された後、ナポレオンが台頭し、ナポレオン軍がエジプトやイタリア遠征をしたこと、そしてイタリアのポンペイ遺跡やエジプトの遺跡の発掘が大流行したことから、こういった歴史的で真面目なデザインも同時に流行したことが関係しています。

※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

前回のロココの優雅~な感じに比べて、なんか真面目そう…な雰囲気。これが新古典主義の特徴なんですね。

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アール・ヌーヴォーの陶磁器デザインの特徴

さらに企画展ではアールヌーボーとアールデコの陶磁器にも出会えました。

まずはアールヌーボー期の作品。
20世紀初頭のロイヤルコペンハーゲンの香水瓶です。

花文香水瓶(ロイヤルコペンハーゲン・20世紀初頭)
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

アールヌーボーは、19世紀末~20世紀初頭(1914年の第一次世界大戦以前ごろ)パリが中心として発展した芸術様式。特徴としては、「植物的で流れるような曲線」。植物のようにやわらかく、優美な曲線を描いた文様が特徴的です。

アールヌーボーを代表する画家といえば、なんといってもミュシャ!

アルフォンス・ミュシャ作「夢想」(1898年・個人蔵)
アールヌーボーの特徴である「植物的で流れるような曲線」、表現されていますよね。


ロイヤルコペンハーゲンの香水瓶を改めて見てみると……確かに蓋の装飾が植物的ですね。

※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

さらにこの香水瓶にあるアールヌーボー的な特徴というのが、色調です。
乳白色の水色をしていますよね。

そう、陶磁器におけるアールヌーボーでは、こういった「淡濁色」というのが特徴としてあるのです。「淡濁色」というのは、「灰色がかった淡い色」を言います。まさにその特徴を表していますよね。

アール・デコの陶磁器デザインの特徴

それに比べて次のアールデコ期は、こちら。

左:ラスター彩花鳥文香水瓶
右:ラスター彩婦人香水瓶 
(どちらも日本陶器・1920-30年)
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影


当時「日本陶器」という会社名だった現在のノリタケの香水瓶です。アールヌーボーが「植物的で流れるような曲線」だったのに対して、1920年頃から1940年頃にかけて流行したアールデコの特徴は「モダンで都会的」

ジョルジュ・バルビエ作 「盲目的な愛」 (1920年)

そしてアールヌーボーが灰色がかった淡い色だったのに対して、アールデコは「濁色」、つまり黒色がかった色なのです。

厳密に言うと、濁色は「明色(明るい色)に灰色を入れた色」です。(黒を入れた色は「暗色」というのがその分類となります)カリーニョでは、初心者向けに淡濁色と見分けがつきやすいよう、濁色を「黒がかった色」、暗色を「黒を入れた色」として紹介しています。

先ほどのロイヤルコペンハーゲンの香水瓶と日本陶器の香水瓶は隣に並んでいるので、アールヌーボーとアールデコの対比がとてもしやすいです。
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

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ガラス工芸品で見る、アール・ヌーヴォーとアール・デコ

今回は詳しくご紹介しませんが、アールヌーボーの時代に、エミール・ガレやドーム兄弟といった有名なガラス工芸家が活躍します。今回の展覧会でもガレとドーム兄弟の作品を見ることができました。

エミール・ガレ(1846-1904)
ドーム兄弟
(19世紀後半~20世紀前半に活躍)

ガラスに詳しくない方も、ぜひガレとドーム兄弟の名前だけでも、覚えてみてください。

では、こちらの画像をご覧ください。

※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影
※「香りの器 高砂コレクション」@パナソニック汐留美術館で撮影

どちらかがアールヌーボー期のガラス作品で、どちらかがアールデコ期の作品なのですが、わかりますか?

正解は、左がアールヌーボー期、右がアールデコ期です。(ちなみに左は、全てドーム兄弟の作品)
アールヌーボーが灰色がかった淡い色(淡濁色)で植物的、あるいはガラスだと昆虫がえがかれていることも多いですが、それに対してアールデコは、モダンで都会的、そして黒色がかった色(濁色)です。

美術、美術館の愉しみ方は人それぞれ

今回の展覧会を通して、ロココ、新古典主義、そしてアールヌーボーとアールデコ、こういった異なる時代の美術様式が一つの空間で、香水瓶を通して同時に見比べることができることが伝わりましたか?

展覧会のキャプションには各美術様式の特徴が記載されていませんので、今回ご紹介した美術様式のキーワードを、何かひとつでも覚えて行かれてみると、感動が何倍にも広がるかもしれません。

もちろん美術も美術館の愉しみ方も、人それぞれ。あくまでも参考程度に感じていただければ幸いです。

この記事を書いた人

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。