美術様式を知ると、モチーフを見るのが楽しくなる!

いよいよルノーブル長岡京店さんで全6回にわたり開催している「美術様式と食器デザイン」も今週木曜日が最終回。テーマは「モチーフで見る美術様式の変遷」です。

実はこの「美術様式と食器デザイン」の講座は、最終回に設定したこの”モチーフでみる美術様式の変遷”を解説できる講座を開講したい……と思ったことがきっかけで、カリキュラムを考えました。いわば、モチーフの意味を知るために、美術様式を順番に解説していった、といっても過言ではありません。

なぜそういったカリキュラムにしたのか。それは私自身が洋食器講座を始めてから、たとえばバラ柄ひとつをとっても、特に18世紀~20世紀は「それぞれのブランド(デザイナー)ごと」というよりも、むしろ「描かれた時期・時代ごと」でバラの雰囲気が変化していることに強い関心を抱いたことがきっかけでした。

それからどんどん「同じモチーフなのに、時代によって描かれ方が違う」ことを様々な書籍を通して知り、いつかモチーフを時代ごとにまとめた講座を開講してみたいと思っていました。

「装飾史」というジャンルとなる今回の講座では、海野弘さんの著書や鶴岡真弓さんの著書が非常に参考になりました。(コラム最後にリンクつきでご紹介しています)

たとえば海野さんの著書『ヨーロッパの装飾と文様』(2013年,PIE)では、序章でミントン窯にデザインを提供したことでも知られるデザイナー・クリストファー・ドレッサーの言葉「装飾を知るには、まずスタイル(様式)を学ばなければならない」を紹介しています。そう……私たちが美術絵画や陶磁器に描かれる美しい花や風景、さまざまなパターンを知るには、順番としてまずは<様式>を学ぶ必要がある、のです。

確かに私自身、特にカリーニョを立ち上げてからのこの約2年は、洋食器のもつ歴史だけでなく、そのデザインがつくられた当時の美術様式についてもインプットとアウトプットを強化してきましたが、たとえば美術様式を知った上でみる「バロック様式の薔薇」と「アールヌーボーの薔薇」は明らかに描かれ方が違います。

バロック期に活躍した画家ダニエル・セーヘルス作『花環の中の聖家族』(1644年)
アールヌーボーを代表するアルフォンス・ミュシャ作『ローズ』(1898年)

実際に海野弘さんは別の著書で

植物が主役になってくるのは、中世後期のゴシック時代ごろからで、本格的にはバロック時代以降、18世紀になってからである。バロックにおいて最初の<花の様式>の時代が開幕する。それは、19世紀末のアール・ヌーヴォーにおいて第2の<花の様式>として復活する。

(引用:海野弘著『ヨーロッパの図像 花の美術と物語』(2017年,PIE)

と、バロックの時代とアール・ヌーヴォーの時代で花の様式に大きな変化があったのだと述べています。

では、具体的にどのように花の描かれ方が変わったのか――。それを知るには、「バロック」や「アール・ヌーヴォー」がどんな美術様式なのか、どのような時代背景で誕生したのか、そういった知識を深めておく必要があるのです。

逆に言うと、時代ごとのモチーフの変遷を解説するために、必然的に各時代の美術様式も解説することになります。ですので今回の講座は、今まで5回に分けて解説してきたバロック様式、ロココ様式、新古典主義、ジャポニスム、アールヌーボー、アールデコが総復習できるような内容にもなります。

相変わらずギリギリまで準備が続きそうですが、私自身が魅了された、この「時代ごとに変化するモチーフのデザインや意味」を、最終回ですし、視覚的に、愉しく受講者の方々とみていけたらと思います!

今回の講座で参考文献として使用した本(一部)

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この記事を書いた人

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。