昨日に引き続き、洋食器講座スポード編の内容の見直し作業中。
イギリス陶磁器の歴史を各ブランドごとに分けてまとめていきながら、創業者のなかに丁稚奉公(年少のうちから下働きとして働くこと)を経験していた窯が少なくないことを知りました。
ウェッジウッドの創業者ジョサイア・ウェッジウッドも、スポードの創業者ジョサイア・スポードも、ロイヤルドルトン創業者のジョン・ドルトンも…貧困を理由に、小学生くらいの年齢の時から働き始めています。ちなみに「陶磁器de読書会」で過去テーマとして取り扱った『クリスマスキャロル』の著者チャールズ・ディケンズも、12歳の頃に靴墨工場で働いていました。(ディケンズがラベル張りをしていた靴墨の瓶は、ドルトン製だったといわれています)

もともとヨーロッパでは、中世の時代からギルト(商工業者の同業者組合)内部で後継者の養成と技術訓練を行うための師弟制度が伝統的にあり、師匠と10~16歳くらいの弟子が寝食を共にして働くという文化がありました。
しかし18世紀後半に入り、産業革命により製造業が伸長したイギリスでは、労働者を援助するために少年少女が炭鉱や工場などで働くことが推奨され、「師弟関係」が、産業革命を期に「労働者」という新たな価値に変わったのです。子供の労働のために、授業時間を制限する学校までありました。
炭鉱での児童雇用について、通常の就業開始は8~9歳、早ければ4~5歳で始まり、その労働時間が12時間であることが記されています。また、北東イングランドでは、7~10歳は通気番、11~14歳は馬曳運搬夫、14~18歳は運搬見習を手始めに、運搬助手、運搬夫となり、18歳以上の成人に達すると炭鉱夫になることも報告されました。
(参考文献 「イギリス石炭鉱業と初期鉱山立法」 若林 洋夫)

工場の現場監督者にとっては力も弱く従順な子どもたちは、非常に都合の良い存在でした。暴力や虐待を受けても、逆らったりする子どもはとても少なかったそうです。

もちろん、児童労働に関して抵抗活動を行う人達も増えていきます。その結果、1833年の工場法の制定により、子供や女性の長時間労働を禁止・制限されたことを皮切りに、さまざまな法律が制定され、最終的に1870年の教育法の制定でイギリスの義務教育がはじまり、1880年に成立した義務教育法により5~10歳の児童労働は禁止されます。

しかし義務教育法が制定されるまでの間は、子供たちが働くこということが日常化されていて、窯業も例外ではありませんでした。年少の子ども達が型を抜き、年長の子ども達がカップの把手を取り付ける作業を週に70~80時間…朝5時に家を出て、夜9時にようやく帰宅できるという状況の窯もあったようです(参考サイト:マンダリンダルジャン)。一説によると、スポードの創業者ジョサイア・スポード1世も、極貧だった幼少期は、かなりの低賃金で朝6時から夜6時まで休みなしで働かされていたそうです。
カリーニョで取り扱っている一流ブランド食器は、本当に美しい。しかし、その美しさの陰には、貧困やさまざまな理由で学校に通えず劣悪な環境で働いていた多くの子供達がいることも、私たちは知るべきだと思っています。なかなかそういった歴史は販売側は語れない、だからこそ、創業者の歴史を知ることで見えてくる、当時のイギリスの歴史的背景を伝えていくことも、陶磁器を愛する一ファンでもある私たちの大事な仕事のひとつなのでは、と……。
1750年頃にイギリスで世界に先駆けて産業革命がおこります。ウェッジウッドのコラムで、この産業革命が、じつは奴隷貿易によって莫大な利益を得ることができたことで成し遂げることができたものだというお話をしました。
イギリス陶磁史を学んでいくと、イギリスが世界に先駆けて産業革命に成功したのが、実は奴隷貿易がきっかけだったこと、そしてイギリスの義務教育が始まるきっかけを作ったのが産業革命であり、児童労働者の存在だった、という様々な歴史的事象が繋がってきます。
洋食器を切り口にした、文化や歴史を学べる愉しみを、これからもまずは私自身が体感し、少しでも多くの人にシェアできればと思います!
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