「ブルーオニオン」だけじゃない!気づけば変化していたデザイン~リチャードジノリ「レッドコック」~

東洋磁器に憧れを抱くヨーロッパの王侯貴族たちの情熱で、18世紀初頭に誕生した、西洋磁器。そのため、西洋磁器が誕生した当初は、中国や日本のモチーフを模倣した食器デザインが数多くあります。

特に有名なのは、1739年にデザインされた、マイセンの「ブルーオニオン」。

マイセン「ブルーオニオン」(食器レンタルはコチラ)


もはや”マイセンのいちシリーズ”という域を超えて「玉葱(たまねぎ)文様」という文様の名称にもなっています(それでも本家本元は、もちろんマイセン)。wikipediaによると、いまや世界中に50種類のブルーオニオンが存在するのだとか。

マイセンのブルーオニオンには、竹の根本に双剣のロゴマークが描かれています。

このブルーオニオンは、ザクロや桃、竹といった中国の縁起の良い吉祥文様が描かれているデザイン性だけではなく、「ザクロを玉ねぎと勘違いした」という、呼び名に関するちょっと可愛い?エピソードも有名です。

もともとこのデザインは、中国磁器に描かれていたザクロ文様をマイセンのJ.Dクレッチマーが模倣してデザインしたものでした。クレッチマーが模倣した当初は忠実にザクロが描かれていたそうですが、この時代のヨーロッパでは、ザクロの知名度がスペイン以外では低かったため、ザクロを知らない絵付師さんによって、ザクロの絵柄が玉ねぎに変化していったそうです。(ちなみにザクロはスペイン語で“Granada(グラナダ)”。―そう、アルハンブラ宮殿のある有名な古都グラナダは「ザクロ」という意味。そのくらいスペインではメジャーな植物なのです。)

この「ブルーオニオン」と同じように、”勘違いで呼び名がついたシリーズ”が他にもあります。
それが、リチャードジノリの「レッドコック」。

リチャードジノリ「レッドコック」(食器レンタルはコチラ)

「ブルーオニオン」が中国のザクロ文様の模倣から誕生したデザインに対し、「レッドコック」は、日本の有田焼に描かれる「粟と鶉(ウズラ)」の模倣から誕生したシリーズです。

江戸時代・17世紀の色絵粟鶉文八角鉢(画像出典:山口県立萩美術館・浦上記念館)
リチャードジノリ「レッドコック」とマイセン「ブルーオニオン」

ここまで日本風なデザインというのは、リチャードジノリのシリーズの中でもかなり珍しいと思います。このデザインの歴史も古く、リチャードジノリの前身であるドッチア窯(ジノリ窯)の創業者カルロ・ジノリの時代に誕生しました。

そしてこのデザインもまた、描かれた当初はウズラ風の鳥が描かれていましたが、ウズラを知らなかった絵付師さんの手によって、だんだんと「にわとり(コック)」に姿を変えて描かれるようになりました。

リチャードジノリの「レッドコック」の鶏が食べているのは、粟なのでしょうか(笑)

今では、ネットで調べると何でもすぐにわかってしまいますが、当時はザクロやウズラを知らない人達が、限られた知識や経験の中で描いていかなければならなかったのですね。それでも、これらのデザインを通し、18世紀にヨーロッパの王侯貴族の人達が、東洋に強い憧れの気持ちを抱いていた姿が想像できます。

ところで、今回「リチャードジノリ」と紹介した、イタリアの名窯リチャードジノリですが、去年の9月にブランド名が「GINORI1735」と変更されました。日本代理店でも去年11月より名称を「ジノリ1735」と変更して展開すると発表しています。

1735年の創業以来、高品質で芸術的な磁器の製造にこだわり、イタリアの卓越性を最大限に表現してきたリチャード ジノリは、2020年9月、“GINORI 1735” という新しいブランド名とブランドアイデンティティを展開していくことを発表いたしました。

これに伴い、日本でのブランド名表記も、リチャード ジノリ(Richard Ginori)からジノリ1735(GINORI 1735)へと変更いたします。またブランドカラーは、品格とフレッシュさをたたえたジノリコバルトになります。

引用:GINORI1735日本公式サイトより

リチャードジノリといえば、2013年に倒産し、同年グッチ(GUCCI)が買収したことが、日本の洋食器業界でも話題となりました。2018年にデビューしたグッチのインテリアコレクション「グッチ デコール(GUCCI DECOR)」の陶磁器も、ジノリが手掛けています。

画像:gucci.com

老舗のブランド食器メーカの名称変更は、近年ではほとんど聞いたことがありませんでしたので、個人的にはなかなかの衝撃でした。

今後「リチャードジノリ」というブランド名での新しい食器シリーズが誕生しないことは残念ですが、買収や名称変更をしてでも閉業せず運営を続ける姿に、洋食器愛好家の一人として、「ジノリ1735」となったジノリ社を今後も応援していきたいな、と感じました。

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この記事を書いた人

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。