新年明けて最初のコラムは、”お祝い”にちなんだ食器に使われるモチーフのお話です。
食器の絵柄を見ていると、意外とよく見かける「フェストゥーン」。
フェストゥーン(festoon)とは、さまざまな草花や果物の束を左右の端を縛って、中央部を垂らした植物文様のことです。”豊穣のシンボル”を表すモチーフで、「花綱(はなづな)文様」「花綱装飾」とも言います。


ちなみにフェストゥーンと同義語で、「ガーランド」という言葉があります。ガーランドは「植物や花を編んで作った飾り(by『大辞泉』)」を意味し、フェストゥーンと同様に「花綱」と訳されることもあります。

語源の由来を見るとフェストゥーンの「フェス」は、「祝祭」を意味する「フェスタ(festa)」から由来していて、ガーランドの中でも「祝祭で使用される”装飾的な”ガーランド」が「フェストゥーン」と呼ばれるようになります。(「装飾的な」を少し強調したのは、個人的には視覚的に見たときに、「少しデコラティブなガーランドをフェストゥーンと呼ぶことが多い」ように見受けられるからです。といっても視覚的な判断なので、ガーランドとフェストゥーンの違いは少し曖昧なのかな、、、という印象。)


もう少し詳しく調べてみると、「フェストゥーン=文様(模様・モチーフ)」であり、主に建築や彫刻、壁画や石棺に見られるもので、「ガーランド=”本物の花(あるいは造花)”を使用した装飾品」であり、神像の首や手首に掛けたり、いけにえの動物に巻き付けたりして使用されていたとされています。「フェストゥーン」=「ガーランド模様」「ガーランド様式」と記載されることもあります。
ただし「花綱文様」のことを「ガーランド」と表記している場合も度々見かけるので、やはり違いは曖昧になっているのではないでしょうか。
ここから少しフェストゥーンの歴史を掘り下げてみます。
「豊穣のシンボル」としてのフェストゥーンの歴史はかなり古く、すでに古代ギリシャ・ローマ時代には、生贄の牡牛や羊の頭部をフェストゥーンで飾る風習が石碑や壁画でみられます。

フェストゥーンは、中世に入りキリスト教がヨーロッパ全土に広まったときに「異教」とみなされ、いったん姿を消します。しかし、古典主義が復活した15世紀末のルネサンス期以降に、再び建築装飾や絵画の中に登場するようになりました。
特に17世紀以降は植物学の興隆を背景に、草花への関心が高まっていたために、フェストゥーンに描かれる植物は、どんどんと写実的なものになっていき、絵画の背景や縁取りに好んで使われるようになります。
食器デザインとしては、18世紀中ごろからのロココ様式や新古典主義の時代によく描かれるようになっています。(もちろん食器デザインだけでなく、王侯貴族の宮殿を飾る室内のパネル装飾やタペストリーにも用いられています)


そして新古典主義の時代になってくると、フェストゥーンはもともとの「豊穣のシンボル」「祝祭」の意味合いよりも、むしろ「古代への憧憬(しょうけい)」、つまり「由緒正しさ」や「高貴さ」などを印象付ける代表的なモチーフとして使われるようになります。

ちなみにフラワーアレンジメントの世界では、「両端を縛った花綱」をガーランド、「片側だけで吊るした花綱」をフェストゥーンと言うようですよ。(専門知識はないので、もし違うようでしたらご指摘いただけるとありがたいです)
時代の変化と共に意味合いが変化してきたフェストゥーン。特にロココ風や新古典主義の食器デザインに出会ったときには、この「花綱」のモチーフに、少し注意深く目を向けてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
城一夫著『フランスの装飾と文様』(PIE,2015年)
海野弘著『ヨーロッパの装飾と文様』(PIE,2013年)
鶴岡真弓著『すぐわかる ヨーロッパの装飾文様』(東京美術,2013年)
\ 食器レンタルはコチラ /
\ もっと詳しく知りたい方はコチラ /