陶磁器de読書会 私と『高慢と偏見』

次回の読書会はオースティン
『高慢と偏見』
ジョージ時代の英国文化を超簡単!に解説します

岡山市にある英国アンティークショップ「ポートベロ」さんとのイベント「陶磁器de読書会」
第8回目の次回は、クリスマス特別企画、読書会参加者によるリクエスト選書でオースティンの『高慢と偏見』です。世界中に熱烈なファンの多い恋愛小説の金字塔です。
ポートベロの金森さんも英文科出身ということもあり、オースティンには親しんだようで、参加者さんとはもちろん、金森さんとのオースティン談も楽しみなところです。

ポートベロ公式ホームページ

ヒロイン・エリザベスと同じ歳ごろに読んだ『高慢と偏見』

この読書会は、基本的に私が今まで読んできた本をテキストに使ってきました。いわば、「私の読書記録」の公開ですね。『高慢と偏見』は、ヒロインのエリザベスと同年代である23歳に読んで、大いに気に入った、恐らく私の中でナンバーワンのラブコメ(ラブ・コメディー)小説でしょう。

というのも、基本的に文学作品の恋愛小説って、悲劇でしょう?ロミオとジュリエット、愛と死、椿姫、アンナ・カレーニナ、伊豆の踊子、まあ、どれをとってみたって失恋か、悲劇的な恋愛の終わりですわね。そうなるとですね、ガッカリ感があるわけなのですよ。せっかく読んでたのに、不幸で終わるんかい!ってね。その点、この『高慢と偏見』は、文学作品なのに(なのに、っていうのも変な言い方ですが)ヒーローとヒロインが、これまた爽快なばかりにスカッと胸をすくような感じで大団円で結ばれる。この爽快感がサイコーで、中毒になる読者がいるわけなんですよ。

じゃあ、なんでそんなハッピーエンドの文学作品が少ないかというと、そうなるとどうしても低俗になるからだと思います。ハーレクイン小説なんて、大概が同じようにハッピーエンドでしょう?一時のコバルト文庫もそうですね。でも、そういうベタな恋愛小説は不思議なことにあんまり印象に残らない。だから悲劇的な文学作品が後世に残ったわけで、そういう点でオースティンの『高慢と偏見』は、ベタなハッピーエンド型恋愛小説なのに、文学性が非常に高く、後世に残ったというまれにみる作品なのですね。というか、このスジのストーリーのパイオニアなわけなのですね、オースティンという女性は。今ある数々の恋愛小説も、どこかしらその源流をたどっていくと、オースティンにたどり着く。これが彼女の作品のすばらしさです。

今回再読してみて、三島由紀夫『夜会服』(イブニングドレスのことですね)も、ある登場人物の口ぐせが引用されているのに気づき、『高慢と偏見』のオマージュだと伺うことが出来ました。これはとても面白い発見でした。

この辺りのことは、詳しく読書会でお話しましょうね!

こちらの文庫本は、私が23歳の時に読んだ河出文庫の『高慢と偏見』です。

今回、新潮文庫の小山太一さんの新訳をチョイスしましたが、これ本当におススメです!
いわゆる翻訳調のぎこちない文章でなく、限りなく日本語らしい言い回しに上手に翻訳されているので、言葉の不自然さのストレスなく世界にのめり込めるのです。
私が23歳に読んだ河出文庫の阿部知二訳ともう一目瞭然。
今から皆さんに、一例を挙げますから、どうぞ比較して読んでみてくださいな。

※主人公(ヒロイン)のエリザベスは、母と会話している。父が亡くなると、法律により「あの人たち」に一家の財産が根こそぎ相続されることを嘆いているシーン。

“There is nothing extravagant in their housekeeping, I dare say.”
“No, nothing at all.”
“A great deal of good management, depend upon it. Yes, yes. They will never be distressed for money. Well, much good may it do them! And so, I suppose, they often talk upon it quite as their own, I dare say, whenever that happens.”
“It was a subject which they could not mention before me.”
“No. It would have been strange if they had. But I make no doubt, they often talk of it between themselves. Well, it they can be easy with an estate that is not lawfully their own, so much the better. I should be ashamed of having one that was only entailed on me.”

(母)「あちらでは、余分な出費はまずないでしょうね」
(エリザベス)「ええ、全然なかったわ」
(母)「やりくり上手もいいところなんでしょ。違いないわ。ええ、ええ、あの人たちなら、赤字を出すこともないでしょうよ。お金に困ることもないでしょうよ。あーあ、しっかりしている人は違うわよねえ!どうせ、お父さまが亡くなったら(我が家の)ロングボーンが手に入るなんてしょっちゅう言っているんでしょ。わたしたちを追い出して、自分たちが住むつもりに決まってる」
(エリザベス)「わたしの前でそんな話をするわけがないじゃない」
(母)「当たり前よ。でなけりゃ、よっぽど変だわ。でも、ふたりっきりの時にはぜったい相談しているわよ。ふん、法律をかいくぐって他人の土地を分捕(ぶんど)るような真似をして、心が痛まないなら、結構なものだわ。わたしだったら、限嗣相続(げんしそうぞく)だからおまえにやると言われたって、恥ずかしくて貰(もら)えやしない。」

いいですねえ。文章によどみがないです。会話文からも、どういった人柄がどんな気持ちで言っているのか、雰囲気が伝わってきますよね。
それが、阿部訳ではそうはいかないんですね。同じシーンです。読んでみてください。

(母)「あの人たちの家系には、ぜいたくなものなんて一つもないだろうと思うよ」
(エリザベス)「ええ、ちっともありませんわ」
(母)「切りもりがとってもうまいのよ、たしかに。そうよ、あの人たちは、収入を越さないように、くよくよしています。(筆者:くよくよって何だろう?現代の言葉ではない)あの人たちは、お金で困ることがないでしょう。まあまあ、たいへんけっこうなことでしょうよ!それから、うちのお父さまが亡くなったら、ロングボーンをもらえるってことをしょっちゅうお話しているでしょうね。そうなるのはいつのことか知らないけれど、もうロングボーンは自分たちのものだと思っているんだろうね」
(エリザベス)「そんな話は、わたしの前では口にできませんでした。」(筆者:直訳すぎる。日本語として少しおかしい)
(母)「そうですよ。口にしたら、おかしなものだろうからね。でも、二人きりではしょっちゅう話していることは疑いないわ。まあ、法律的に自分たちのものでない財産のことで平気でいられるなら、なおさら結構なことだわね。(筆者:この一文は日本語として少しおかしい)わたしなら、限嗣相続でしかもらえない財産を手に入れるなんて恥ずかしくなるわ。」

分かりますでしょうか?この翻訳の違い。阿部訳は、変に母親が慇懃(いんぎん)な口調で、会話の中身の猥雑さとくらべて妙なミスマッチがあります。かつ、日本語として少しおかしい部分があり、それが文章を読みにくくしているため、話の内容がダイレクトに伝わってきません。
本来でしたら、エリザベス母はもっと田舎臭い人物なのです。それは、彼女がアッパーミドルクラス(上位中流階級)出身ゆえに、上流階級(アッパークラス)の習慣を身に着けていないことからおこることなのですが、そのあたりを加味せずに、変に上流階級の奥様風の口調に翻訳してあると、何だか違和感があるのです。その点でも、今回の小山新訳を私は評価するわけなのです。

もっとも、オースティンの文章をそのまま使いつつ、キレイな日本語にしてあるのは、中公文庫の大島一彦訳と思いますが、意訳しつつ、テンポよくオースティンの描く毒舌の雰囲気が伝わってくるのは、やはり小山訳が最高です。

さらに、今回小山訳では、名称を全て直訳のカタカナ表記にしてあります。そのため、他の翻訳では「ベネット夫人」「キャサリン夫人」と同じような意味合いに聞こえますが、小山訳の「ミセス・ベネット」と「レイディ・キャサリン」の表記で、この2人の身分の違いがはっきりと区別されています。
この点でも、初心者には読みづらさはあるものの、英国文化を学ぶ上では避けて通れない「呼び名」を学べる、とてもいいテキストです。

ジョージアンの文化を知るために読む『高慢と偏見』

会場はおなじみ、アンティークショップでは全国的にも有名な「アンティークハウス ポートベロ」さんです。

第7回読書会の様子

ポートベロさんのショップは、イギリス郊外のコテージ風の建物。物語が描かれている当時の雰囲気にひたれることは間違いありません。

当日は、ウェッジウッドの「ミラベル」のワンポイント解説も予定しています。『高慢と偏見』はいわゆるジョージアンの時代。当時の文化が文章にも反映されています。ウェッジウッドが誕生し、新古典様式の知的なデザインが流行したジョージアンの世界を堪能しましょう。


オースティンファンの方にも、全くの初心者の方にも、楽しんでいただけれる企画をと考えています。これから本書を読みたい方、昔読んで懐かしい方、普段は読書をしないけれど、どんな物語か知りたい方、どんな方にも好評を頂いている読書会です。読んだことがない作品が、読んだことのある人よりもわかってしまう、それがこの「陶磁器de読書会」の特徴です。


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多くの皆さまの参加お待ちしております! 

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この記事を書いた人

玄馬絵美子

玄馬絵美子

薬剤師 / 「陶磁器de読書会」講師
カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局や病院で薬剤師として勤務し、現在子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは財務面を担当。カリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆、読書会を主宰する。
【これまでの実績】
全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。
新聞の文芸欄掲載多数。