【第29回】映画『ダウントン・アビー』期待を超えた感動のストーリー(2/?)

陶磁器を彩る美しいモノたち
映画『ダウントン・アビー』
今回はネタバレあり ファン待望のカップリングがついに

 

今月から公開されている映画『ダウントン・アビー』(原題『DOWNTON ABBEY』)皆さんご覧になられましたか?

映画版公式ホームページはこちらのページをご覧ください

映画「ダウントンアビー」。言わずと知れた、世界で大ヒットした英国長編ドラマの続編です。

「陶磁器を彩る美しいモノたち」ダウントンアビー編では、筆者の率直な感想や映像美、文化、ストーリーなどをコラムにする予定のシリーズです。第1回目の前回は、ネタバレなしの安心・安全で読める「ダウントンアビー」映画のここがすごい!をお話しました。第2回目の今回は、いよいよネタバレありの核心に迫りながら「映画のここがすごい!」を解説していきます。

 

その③それぞれレギュラーメンバーが大活躍の巻

そもそも「ダウントンアビー」は群像劇(ぐんぞうげき。登場人物の複数人が主役の物語のこと)です。主人公というものはいません。全員がそれぞれにスポットライトが当たります。

まあ、それでも基本的にはクローリー家の長女、メアリーの人生が舞台の中心をなしている、といえましょう。そもそもシーズン1は、美人で、プライドが高くて、計算高くて、冷淡で、頑固者のメアリーが伴侶探し(息子のいないクローリー家では、相続人となる長女の婿探しは一族の最重要課題だった)を中心にスタートするわけなのですから。

私も、登場人物の若年層女性群では、だんぜんメアリー押しですね。プライドが高くて、頑固者というのは、その内側に非常に繊細なコンプレックスをもっていて、そこを解きほぐす男性のカップリングが好きだからです。(英国の名作小説オースティンの『高慢と偏見』がまさにドンピシャです。メアリーはこの『高慢と偏見』の主人公エリザベスがモデルというのは、誰もが納得のいくところでしょう。)

それでも、「ダウントンアビー」は長編ドラマで、丁寧にその周辺の人たちの人生もあぶりだします。それぞれが悩み、とまどい、直面する問題を乗り越えていくわけなんですね。その様がとても丁寧で、人々の感興を誘うのです。…というわけですので、自然と映画でもドラマ版の各人がスポットライトが当たる方式を踏襲してほしい、とファンは願うのです、というよりもうそうするよね!?という強迫に近いですわな。

いやー、なので、2時間ぽっきりでよくもまあ、あれだけのレギュラーメンバーのそれぞれ見せ場を作ったものだと感心してしまう脚本です。ファンの期待を見事に受け止めた。
さすが、ジュリアン・フェローズ。
一番見せ場がなかったのがクローリー家お父ちゃんのロバートくらい?っていうくらい、他のみんなはぞれぞれに本領を発揮します。いえいえ、もちろんロバートも活躍してますよ、なんてったって、国王夫妻のおもてなしが成功裏に終わるのですからね。

そして、一番の珍プレーはいうまでもなく、モールズリーさんでしょう!
この人、はじめは真面目だったのに、シーズンを追うごとにキャラクターが形成され、コメディアンになっていきました。映画上映中では、私が見ていた劇場では観客からの思わず笑い声がどっ!と湧きました。これぞ、劇場の醍醐味ですね。

その④ファン待望のカップリング!?お相手はファンのお眼鏡にかなったという話

 

劇場の醍醐味という点では、今回のある上映館では、例のシーンでおもわずファンからの「キャー」という嬉しい悲鳴まで飛んできたそうで…。それがどこだか、もうお分かりでしょう。
そうです。クローリー家執事のバローさん(トーマス)です。

バローは、「ダウントンアビー」の中では突出した複雑な人物形成をしたキャラクターです。おしゃれで、ハンサムで、嫉妬深く、皮肉ぶってて、孤独で、アウトロー。けれどふっと無防備になったときに、傷つきやすいガラスのハートを持っていることを露呈する。意地悪で、策略家なのに、人助けしたり、熱心に勉強を教えたりする。非常な多面性があって、ただ単に、悪い人、というだけにすませられない不思議な魅力を持ち合わせています。

その要因の一つとして、バローには男性同性愛者、という大きな負の烙印(当時の同性愛者は単なる異端者ではなく、犯罪人で処罰の対象になっていた)を背負っていたのが大きかったのですね。バローがダウントンアビーを一時は退職しても、結局は元のさやにもどったのも、ダウントンアビーの住人は、上の階層(クローリー家)も下の階層(使用人たち)も、バローのセクシャル・アイデンティティを黙認していたからに他ならないのです。

そのバロー。ドラマ終盤でセクシャリティの改心治療の末、自殺未遂まで図りますが、辛くも助かります。この辺のバローは観ていて切なかったですね。しかし、カーソンのリタイヤと共に、クローリー家の執事へと昇格します。ドラマ版シーズン6ではこの執事昇格で、一応のところバローもハッピーになりましたね、という形で終了します。

それで、この映画版です。映画版では、バローに待望の「お相手」が見つかるのです。
お相手は、「キャー」という嬉しい悲鳴からも、ファンの厳しい審査を潜り抜けた相手であったことは間違いないでしょう。バローは、登場人物の中でも一番の複雑な人間で、ドラマ版ではついぞ「お相手」は見つかりませんでした。それだけにファンからの祝福の思いは計り知れないものがあったのです。

 

その⑤トム・ブランソンが見つけたお相手も、ファンの厳しい査定を合格した人に

お相手、という点では、シーズン6では最後に2組のカップルが誕生しましたが、今回の映画版ではバローと共に、もう一人のカップルが誕生しました。そうです。トム・ブランソンの再婚相手の候補がついに見つかったのですね!

トムもまた、複雑な心境を内包しながらも、徐々に没落の影が見えるクローリー家と人生を共にすることを決断した人物です。
トムはクローリー家の三女、シビルと駆け落ち結婚した元ダウントンアビー使用人(運転手)です。シビルと結婚することで、下の階層(労働者階級、ワーキングクラス)から一気に上の階層(上流階級、アッパークラス)へと階段を駆け上がった、逆玉の輿ボーイです。
しかしながら、トムは野心があったわけでもなく、純粋にシビルを愛していただけだったのですね。ですから、シビルが産褥死してしまうと、一旦はダウントンアビーを離れ、渡米するのですが、彼もバローよろしくダウントンアビーに戻ってきます。(この辺の下りは商業的な匂いがないわけではありません)

そんなトムはアイルランド出身のカトリック教徒です。イングランドの国教であるプロテスタントを信仰するクローリー家とは、宗教的価値観、政治的価値観、そして階級社会の価値観がまるで違うわけです。そのことでしばしばクローリー家とは衝突するのですが、この辺のことはまた次回にお話しましょう。ともかく、そういう複雑な背景を持つクローリー家の一員、という立ち位置です。

それで、男やもめのトムは、シビル亡きあと私の目から見ると女運がないというか、いい女性に出会うことがありません。挙句の果てには美人局(つつもたせ。男を誑(たぶら)かして金銭などを要求する悪女のこと)の魔の手にやられかけるという、恐ろしい事件も起きます。ファンからしても、トムの信頼がグラッとする事件でしたね。

ですから、トムの次なるお相手がもし出てくる、というであれば、ファンがね、もうさながら釣り書きを目を皿にして眺めるような、そんなお見合い斡旋の世話焼きおばちゃんのような気分になっているのですよ。
それで、今回のお相手です。いやあ、ついに出てきたか、というような女性でしたね。
クローリー家の大御所であるバイオレットの従姉妹であるモードのメイドのルーシーです。
メイドとしてそばに置いていますが、実はモードが未婚の母として産み落とした実の娘だったのですね。モードには正式な子供がなく、相続人問題でバイオレットとモメている最中でしたが、将来正式な子供として認定し、相続人にするつもりであることが発覚します。

つまり、モードは近い将来、上流階級の娘としての仲間入りを果たすわけです。それでもって育ちは、メイドあつかいのワーキングクラスの辛酸をなめているわけで、この辺の境遇がまさにトムと重なるのですね。トムとルーシーはもちろんそんな事情など知る由もなく、純粋に愛し合い始めるのですが。このルーシーという女性は、美しく、気立てもよく、なおかつ莫大な財産を受け継ぐ予定ながら、ワーキングクラスの苦労も知っているという、ファンのお眼鏡にもバッチリかなう人物なのですね。よくもまあ、こんな人物を見つけてきたものだと、私も感心するような筋書きです。

…というわけでシーズン6の最終回までにやり残していた、二人の孤独な男性をハッピーにさせるという素晴らしいシナリオを用意してくれた、ファンの期待をいい意味で裏切る感動の映画版には拍手喝采です。

ここまでで、またずいぶんと長くなってしまったので、続きはまた次回にしましょう。
うーん、ダウントンアビーは、語りつくせませんね!

 

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役 / マネーリテラシーアドバイザー / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう