【器×対談 第1回 ロブマイヤー編(5/5)】 ロブマイヤーの願い

カリーニョ代表 加納亜美子が、陶磁器やグラスに携わるお仕事をされている方々にインタビューし、陶磁器・グラス業界のリアルな声をお届けする対談コラム「器×対談~カリーニョと器を語り継ぐ~」。

これまでロブマイヤー日本総代理店 株式会社ロシナンテの部長・天野光太郎様との対談をご紹介してきましたが、天野さんとの対談コラムも、今回が最終話です。

  1. ロブマイヤーとは「応用美術」
  2. ロブマイヤーの特徴とは?
  3. 「バロック調シャンデリア」の元祖はロブマイヤー
  4. 芸術家とともに歩むロブマイヤー
  5. ロブマイヤーの願い(現在閲覧中)

最後は、ロブマイヤーの今後の展開を中心に、お話を伺いました。

日本発信のロブマイヤー商品を作りたい

(天野さん)「(ロブマイヤー創立)200周年も近いので、日本発信の高級商材を作るっていうのを計画しています。

いわゆる向こう(オーストリア)が発表したものを紹介する、というだけではなくて、デザインはこういう形で、コンセプトはこういう形で、そういうものを投げかけて、それをロブマイヤーが受け入れてデザインとして確定させることができるかという…。

そういう構想が、今一番興味があります。そこに商売っ気を…。」

(加納)――お、出しますか!

「…出さないです(笑)。これはこのぐらいのコストでやって 、という発想ではないものを作っていきたいです。」

――やっぱりそのスタンスは変わらないんですね(笑)。でも日本発信で出来たら、すごく面白いことになりそうですね!

「社内でもそれぞれの得意分野というものがあって、ワイングラスで最高級のものを作るというものもあるでしょうし、テキーラというものも一つの選択肢としてあります。いろんな形で考えていますね。」

【MEMO】
※天野さんは日本テキーラ協会認定グラン・マエストロ・デ・テキーラの資格保有者

――志村社長は現代アートで 、天野さんは水墨画。現代アートと水墨画がリンクしているような、そういった世界観ができれば面白そうですが…

「それはすでに繋がっていて、表現化されている抽象画の先生がいます。全く繋がっていないわけではないのですね。それはそれで面白い世界になっていますよね 。」

思い出のロブマイヤーのリキュールグラス

――ところで、ロブマイヤーのグラスは、実はテキーラのようなお酒で使うリキュールグラスの方が、ワイングラスよりも種類が多いんですよね 。

※「リキュールグラス」…リキュールをストレートで飲むための、小型のグラス。 リキュールだけではなく、ウォッカ、テキーラ、ラムなどをストレートで飲むのにも使用する。容量は30~45ml。

「(ロブマイヤーの)5代目社長がリキュールグラスのコレクターで、3000も4000も種類を所有しています。ウィーン郊外にリキュールグラスの博物館というものも作っていて、世界中のどのメーカーよりも(リキュールグラスを)持っています。」

――ロブマイヤーのリキュールグラスには、私も特別な思い出があります。

私はロブマイヤーとの繋がりが全くない中で、「ロブマイヤーのグラスを、仕事でぜひ使わせてください!一緒に仕事してください!」と(ロブマイヤーサロンに)押しかけたところからのスタートだったんですよね。

もちろん最初は断られて…でも何度も通いながら、去年念願かなって天野さんと一緒にお仕事ができました。

そのとき、「初めて一緒にお仕事した時に得たお金を使って、ロブマイヤーグラスを買おう!」と決めていました。それで買ったのが、『ミツコ』のリキュールグラス。

※『ミツコ』…クーデンホーフ光子伯爵夫人(1874~1941)の名を冠したシリーズ。日本人で、オーストリアの貴族に単身嫁いだ気概ある夫人。

――すごくその時の記憶って残っているんですよ。志村社長もその場にいて、私の『ミツコ』選びに付き合ってくれました。

ちょうどその仕事(ロブマイヤーセミナー)がハプスブルク家に関係している内容もあったので、このシリーズ名(『ミツコ』)がハプスブルク家に関係した日本人女性に由来するというストーリー性を気に入って、『ミツコ』を買おうと決めました。

※クーデンホーフ光子は、当時オーストリアを統治していた皇帝フランツ・ヨーゼフ一世に謁見した唯一の日本人女性。


(志村社長も一緒に『ミツコ』を選んでくれているときに撮った写真。手作りなので一つ一つわずかに形が違う。2017年11月撮影。)

――その時、志村社長が「こんな買い方で『ミツコ』を買った人は初めてです。これからは加納さんのことを『滋賀のミツコ』で覚えておこう」って言われたんですが…志村社長、覚えてくれてますかね?

「覚えていますよ(笑)。

『ミツコ』のシリーズは、2代目のルードヴィッヒ・ロブマイヤーの作品の一つなんですが、あの時代っていうのは比較的装飾の時代で、あれだけモダンさのあるデザインを作っていているのはすごいです。

(ルードヴィッヒは)生涯独身を貫いて、「ガラスと結婚した男」と言われているくらい、デザイン開発に携わった人です。今も残っているデザインになりますので、数は少ないんですが、ミツコファンというのは何人か…密かにいます。」

※ミツコが発表されたのは1866年。フランツ・ヨーゼフ一世の時代

――ちょっと今近くにあるので持ってきます。これが、私が初めて買った『ミツコ』。 装飾過多の時代において、すごくシンプル。

「そうですね。1800年代後半は装飾とかエングレーヴィングが流行っていた時代なので、ステムの部分は結構(前時代の)バロック調の形状が残っているんですけども、この辺り(カーブ)は非常にシャープに出来てます。」

――私にとって、グラスに対してこれだけの思い入れを持ったものは、他にはないです。
私はロブマイヤーのグラスを「商品」ではなくて「作品」と思っていて…そこに愛着や思い出が加わると、もう唯一無二の、オンリーワンになって…大切にしないわけがないですよね。

※「エングレーヴィング」…回転する円盤にガラスを下から押し付けて表面に文様を彫刻する技法。

『ミラマーレ』をキーワードに商品開発中

――天野さんは、ロブマイヤーのグラスでそういった思い入れのあるものはありますか?

「そうですね…今からですかね。

前回ウィーンに行った時に、ウィーンの(ロブマイヤー)ショップの店にあったエングレーヴィングのグラスを仕入れることにしたんですけど、すでに手元にはありません。

『ミラマーレ』というシリーズなんですが、マクシミリアン(1832~1867)がミラマーレ城に住んでいたので、『ミラマーレ』と名付けられて。今、それをキーワードに商品開発を…、という話があります。

※「ミラマーレ城」…イタリアのトリエステ近郊にある城で、マクシミリアンによって築かれた。当時はオーストリア領

――マクシミリアンといえば、フランス・ヨーゼフ一世の弟の…

「メキシコ皇帝になった人で、植物学に非常に興味がある人物でした。

(メキシコへは)ナポレオン三世の要請を承諾して行く部分もありますが、ブラジルの植物の研究もしたかった、というストーリーもあるので、それを使ったグラスというのを開発したいなと、思っています。」

※「ナポレオン三世」…1808~1873。ナポレオン一世の甥。

メキシコ+植物=テキーラ、マクシミリアンに繋がる?

――私はマクシミリアンのことは、最期が悲劇的だったという印象が強く、植物が好きだったというのは、お恥ずかしながら知りませんでした。メキシコというキーワードと、植物というキーワードで、 テキーラを入れてみるようなリキュールグラスなんて面白そうですね。

「そうですね。メキシコの歴史博物館というところに、マクシミリアンが使っていたといわれている食器や調度品が収めてられた部屋があるらしいのです。

そこにグラスがあるのかどうかを、今から調べていきたい、と思っています。そこにロブマイヤーがあるかどうか… もし、あるようなら、夢が膨らみますね。

写真の中には、そういうグラスみたいなものが写っているんですよ。でも遠い国ですし、それ以上はまだ調べきれていません。でも興味がありますね。」

※メキシコの酒で、竜舌蘭(リュウゼツラン)の一種である植物がテキーラの主原料。

ロブマイヤーの願い、それは「ストーリー」に興味を持つ人が増えること


――確かに興味深い話で…天野さんもテキーラがお好きですし、見に行けたらいいですね!グラスを見に行くのか、テキーラを味わうのか、どちらが目的が分からなくなりそうですが…(笑)。


私も天野さんと出会って、「メキシコ」や「テキーラ」というキーワードを新しくいただきました。それも天野さんの「好き」から派生した仕事の仕方ですよね 。私もすっかり、テキーラの世界に魅了されていますが、まさかロブマイヤー のことを学ばせてもらっているうちに、テキーラに結びつくなんて思ってもみなかったです。

もっと言えば、「オーストリアのブランドとメキシコのお酒が一緒に仕事している???」みたいな感じがあって…、天野さんの試みというのは、まさしくオーストリアとメキシコを繋げて、さらにそこに日本発信という…三つの国を繋げるようなことに挑戦しようとされている…非常に面白いです 。

(ロブマイヤーグラスでテキーラを飲み比べられるセット。
2019年2月に新宿伊勢丹で開催された『世界を旅するワイン展』で撮影。)

「そういうことができるといいな、と思っています。これからどうなっていくかはまだ分かりませんけれどもね。でもいろいろと考えるのが楽しいですよね 。」

――しかもそれが 売上目的ではなく、本当に…

「売上目的で…」

――えっ、売上目的ですか?(笑)

「売上目的というより、良い作品を紹介したいという(笑)。」

――でも私はその(売上げ目的でない)価値観がすごく好きなので、今回もこのインタビューでちょっと強調しすぎたかもしれません(笑)。今後は、日本発信の新しい商品ができるのを、私もいち ロブマイヤーファンとして楽しみにしてます。

「加納さんみたいにすごく勉強家で、ロブマイヤーのファンになってくれる方が増えていくっていうのが、うちとしては一番心強いので。

見た目だけでお求めになる方もいらっしゃるんですけれども、そういう(商品の)背景まで興味を持ってくださり、更にそういうことを人に伝えていただける方が、いろんな所に増えていければいいな、というのが一番うちの会社で思っていることですね 。」

――…すごい!最後にちょっと何だか褒めてもらえた気分に…天野さん、貴重なお話の数々、本当にありがとうございました 。

(完)

取材協力:
ロブマイヤー日本総代理店 株式会社ロシナンテ
http://www.lobmeyr-salon.ecnet.jp/

<器×対談>第1回ロブマイヤー編(全5回)

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この記事を書いた人

加納亜美子

西洋磁器史研究家 / 料理研究家
「カリーニョ」代表。カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。

幼少の頃から洋食器コレクターの父親の影響を受け、食器の持つバックストーリーに興味を持ち、文系塾講師、洋食器輸入会社で勤務後、2016年1月~会員制料理教室「一期会」、2019年1月~高級食器リングサービス「カリーニョ」の運営を始める。
曾祖母は赤絵付けの原料となるベンガラ作りに関わっていたルーツを持つ。