『柳模様の世界史 大英帝国と中国の幻影』―「ウィローパターン」の物語とルーツを探るマニアックな一冊

「柳模様」、別名「ウィローパターン」という陶磁器の文様をご存知でしょうか?

 


(www.thepotteries.orgより)

柳(willow ウィロー)を中央に置き、空を飛ぶ2羽のキジ鳩やマンダリン(中国の高級官史)の館、その館を取り巻くジグザグのフェンスに、中国風の橋を歩く(もしくは走る)ように見える3人の人物などを配したデザインです。

食器のことが詳しくない方も、なんとなく見たことがある…と感じる人もいるのではないでしょうか。

今日ご紹介する本は、そんな柳模様に「憑りつかれて」ほぼ10年(当時)経つという東田雅博氏の著書『柳模様の世界史 大英帝国と中国の幻影』(大修館書店,2008年)です。

※なお、私は普段このデザインを英語読みの「ウィローパターン」と呼ぶことが多いですが、今日はこの書籍の表記に合わせて「柳模様」と表記していきます。

 

 

非常に謎の多いこの柳模様。
世界中に様々ある陶磁器の文様に対し、何か特定の文様にフォーカスした書籍というのは他に見たことがありません。
実際、東田氏も本文で

陶磁器の文様の意味を世界史的観点から探るなどという試みは、おそらくこれまでに見られなかったはずである。
(208頁)

と述べられています。

このデザインには、興味深い特徴が2つあります。
ひとつ目は、一見すると中国風なデザインにもかかわらず、この文様が誕生したのは、中国ではなく、イギリスであること。

もともと17~18世紀のシノワズリブームにのって、18世紀末にイギリスで発案されたもので、比較的最近までイギリス社会でもてはやされていました。そのため、19世紀のイギリスを舞台にした映画には、壁に柳模様のお皿が飾られてあったり、「a plate of the willow pattern(柳模様の皿)」という表記が出てくる小説に出合うことも度々あります。

個人的に興味深かったのは、イギリスの画家・詩人であるロセッティ作「格子窓の少女」(1862年)に描かれている花瓶も、柳模様なのではないかという説があるということ。


(ロセッティ「格子窓の少女」。)

確かに右下の花瓶は、柳模様に似ている・・・?
ちょっと断定するには厳しいですが、ロセッティは東洋の陶磁器コレクターだったので、所有品に柳模様の食器があっても不思議ではありません。

そして、もうひとつの特徴が、この文様にはおとぎ話のような「物語」があること。
しかも、もともと存在していた物語を文様に使用したわけではなく、器のデザイン(柳模様)から発想を得て、それが物語化されたのです。文様に物語がついていること自体、とても珍しいことですが、それが「デザイン・ファースト」だったというのが、とても面白いなあと感じています。

どんなストーリーなのか。この物語は諸説ありますが、今回は東田氏の解説を要約したものをご紹介します。

注目するポイントは、橋の上の「3人の人物」と柳の上空を飛ぶ「2羽のキジ鳩」です。

 

 

登場人物はマンダリン(高級官史)、マンダリンの娘、マンダリンの秘書、マンダリンの婚約者の4人。

器に描かれている二階建ての大邸宅は、マンダリンの家。そこから分かるように、このマンダリンは大金持ちで大変な権力者でしたが、密輸などの不正取引に携わる商人たちから賄賂を取っていたり悪いことにも手を出していました。

そんな中、不正が世間にバレそうになったので、マンダリンは秘書に財務処理を任せます。そして秘書がそれを完遂した途端に、クビにしました。実はこの頃には若い秘書は、マンダリンの娘に恋をしていて、娘もまた、秘書に恋をしていました。しかし娘には、大金持ちの婚約者が・・・もちろんマンダリンは秘書と娘の恋を猛反対。

いよいよ娘と婚約者の結納の日になりました。
すると、この盛大な宴の混乱に乗じて秘書が娘を連れて逃げようとします。その様子が器に描かれています。


(ちょっと分かりにくいと思いますが…)

先頭にいるのが、処女の象徴である糸巻き棒をもつ娘。次に続くのが、婚約者から娘に贈られた宝石箱を持つ秘書、そして一番後ろがムチを持つマンダリンです。

この場をなんとか逃れた娘と秘書は、ひとまず橋の向こうにある小さな家に隠れ住みます。しかしすぐに追っ手がやってきて、今度は柳模様の上部に描かれた小さな島に住み着きます。

ここで二人は幸せな生活を送りますが、ここで秘書は農業に精を出し、農業に関する書籍を出版し名声が高まります。そのせいで、彼らの居場所が婚約者にバレてしまいます。

婚約者は2人が住む島を攻撃し、結局娘と秘書は死んでしまいます。神様はそんな2人を憐れみ、二羽の不死のキジ鳩に変身させます。

こうして婚約者はキジ鳩に呪われ、汚らわしい病に倒れたとさ。

— END —

という話。これだけを読むと、なんだか婚約者が可哀そうな気もします・・・
何度も書きますが、柳模様にはいろんなストーリーがありますので、これは一例です。しかし、それにしても、本当によくできた物語です。

よくできた物語ですが、実はこの話をいったい誰が作ったのかは、全く分からないのですね・・・。

さらにこの柳模様、一般的にはミントンの創業者であるトーマス・ミントン(1766~1836年)がデザインの案出者として知られていますが、他にもスポードの創業者ジョサイア・スポードや、トーマス・ターナーという人物が案出したとされていたり、誰が発案したかに関してもまだ解明がなされていないそうです。

東田氏は、そういった謎の多い文様であることもまた、人々を引き付ける要素の一つだと述べています。

この本は、柳模様がイギリス社会に与えてきた影響や、どういったルーツで誕生したのかを詳細に検証している内容が主でしたが、「陶磁器の文様から世界史を知る」という視点、非常に面白いと感じました。

「ブルーオニオン」や「インドの華」などの様々な窯が模倣したデザインから陶磁史を掘り下げてみたくなりました…。

 

【アミーゴの読書感想文】
17冊目:『柳模様の世界史 大英帝国と中国の幻影』(東田雅博著,大修館書店,2008年)

【このページの文章を書いた人】 加納亜美子(アミーゴ先生)

株式会社アリベ 代表取締役/『カリーニョ』代表 カリーニョを運営する三姉妹の末っ子。料理教室「一期会」を主宰し、洋食器輸入代理店でのセミナー講師、コラム執筆など多岐にわたり活動中。 通称:アミーゴ先生。これは、”世界中に沢山の友達が出来るような社交的な人になるように”と、父親が「アミーゴ(スペイン語で『友達』)から由来して名付けた「亜美子」にちなんだニックネーム。

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