【第25回】なぜ中世ヨーロッパではドラゴンが信じられたのか?

邪悪で人々の恐怖の化身であったヨーロッパのドラゴンと
縁起の良い聖なる中国の龍
ふたつの神秘の生物の謎に迫る

 

ドラゴン。今でも、世界中で愛されている架空の生物ですね。
今なお、ファンタジー小説・映画・ゲームには欠かせない存在です。

先日、テレビでドラゴンにまつわる謎について迫る番組を見ました。なぜ、ドラゴンという生物が中世ヨーロッパに生まれたのか?それは、さまざまな要因が絡んで、人々が作り上げたものだったのですね。

ドラゴンを構成する3つの要素

具体的に言うと、一つは「恐竜の化石」が存在していたのは中世の人々も知っていたわけです。で、それを例えば「2億年前の恐竜の化石」だと、科学的に証明できないわけなのですよ。だから、どうやってこの目の前にある角やかぎ爪をもった巨大な生物の骨のつじつまを合わせたのか?というところで、「じゃあ、ドラゴンみたいな生物がきっといるに違いない」ということで納得しようとしたのですね。

そして、もう一つが、災害。人々から恐れられていた火事・病気・嵐といった人間の力ではどうすることも出来ない災害が起こる理由を、これまた当時は科学的に証明できないわけです。ですから、火を吐き(火事)、毒を吐き(病気)、嵐を呼ぶ「ドラゴン」の存在によって、それを理由付けした、という説です。

そして最後が、中世ヨーロッパを支配していたキリスト教(教会)の洗脳です。教会はドラゴンの存在を公的に認め、キリスト教の布教者をドラゴン退治をした英雄(勇者)にまつりあげました。すなわち、キリスト教の信者になるなら、ドラゴン退治をしようといって、英雄はドラゴンに立ち向かったのですね。すごい布教活動です。

ドラゴンや龍は陶磁器のモチーフに

ウェッジウッドの「フロレンティーン」もドラゴンがモチーフとなっています。
出典:ルノーブル

中世ヨーロッパに限らず、中世の中国・日本でも龍(りゅう)は信じられていました。中国や日本でも恐竜の化石はでますからね。
しかし、邪悪で人々の恐怖に陥れる羽を持ったドラゴンとは違い、中国の龍は羽を持たず、長いながーい胴体に玉(宝物)をもった聖なる生物として、縁起の良いものとして描かれたのが大きな違いですね。
どちらも共通するのは、装飾の文様として扱われていたということです。陶磁器のモチーフとしては、縁起の良い龍の方が多いような気がしますが、建築物や紋章としては、ドラゴンも同様にモチーフとなっています。

ドラゴンや龍は、その神秘的な力から、体の一部を薬として用いようと中世の人々は考えました。「ドラゴンの血」は、中世ヨーロッパの秘薬でした。その中身はその名も竜血樹(りゅうけつじゅ)という木の樹液。固まった樹液は、なるほど深紅のルビーのようで神秘的な雰囲気100%です。同じく、龍も、漢方薬として例えば「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」という呪文のような漢方薬の成分として、現在でも竜骨(確か実際は牛の骨かなにかが使われている、と薬学の授業で聞いたような…)が使われています。

決定的に違うのは、人々の価値観

私はコラムで何度も、19世紀末~20世紀初頭の文化が好きなのは、その時代の人たちが初めて私たち現代人の感覚になってくるから、と申しています。

そう、ウィーンの世紀末芸術、パリのベルエポック、そしてイギリスのヴィクトリア時代。これらのコラムで繰り返しお伝えしたので、皆さんも覚えているかもしれません。

その一方で、中世ヨーロッパの人々の感覚は、現代の私たちとは大きく異なります。やはりそれは、一番に「科学的なこと・医学的なこと」が良く解明されておらず、その理由を宗教や神秘的なものに結びつけることで、なんとか自分たちの中で納得させていたからというのが大きな要因です。化石や、病気や、災害を、悪魔やドラゴンや魔女のせいにする。そうして、なんとかこの苦しく、どうしようもなく、意味不明なことばかりの現世と折り合いをつけていたのです。

18世紀になり、科学的・論理的に基づく啓蒙思想や考古学ブームが訪れると、化石が恐竜のものであることがわかり、ドラゴン神話は急速に廃れていきます。

しかし、現代の私たちの心にも、未知なるものに対する憧憬(どうけい)と畏敬(いけい)の念は、いつの時代になってもなくなることはありません。ドラゴンや龍が、今なお世界中の映画で、マンガで、ゲームで、愛されて続けているのは、きっと神秘を愛する潜在的な何かがあるのだと私は考えます。

 

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役  / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた東西の19世紀末~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

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