【第24回】釉下彩(ゆうかさい) アールヌーボー時代に登場したミルキーな陶磁器(5/5)

陶磁器を彩る美しいモノたち
アールヌーボーの時代に生まれた柚下彩
乳白色の造形美

 

はじめは、1回の連載で収めようと思っていた「陶磁器を彩る美しいモノたち」ミュシャ編。
1回目のミュシャ展の導入から、ベルエポック、アールヌーボー、ミュシャの絵画、と気が付けば連載5回シリーズとなってしまいました。

現在、「みんなのミュシャ展」は、京都文化博物館で開催中です。(上下の画像は公式ホームページより)

京都文化博物館公式ホームページ

最終回の今回は、アールヌーボーの陶磁器についてです。

アールヌーボーの陶磁器。皆さん、ご存知ですか?
マニアでもない限り、あまり知られていないのでは、というのが私の感想です。というのも、アールヌーボーといえば、何といってもガラスをイメージするからですね。ラリック、ガレ、ドーム兄弟…と今に名を残すそうそうたるガラス工芸家が軒を連ねていますから。

「沼沢地の蜻蛉(かげろう)と植物相文の円形型花瓶」ドーム兄弟 1904年
出典: 東京富士美術館

蜻蛉という昆虫、やわらかな曲線、色量の小ささ、淡濁色(色量、淡濁色については、前回のコラムをご覧ください)というアールヌーボーの特徴をここでもしっかりと見ることができます。
ミュシャ自身もガラス細工のデザインを手掛けていますので、アールヌーボーといえばガラスを思い起こす人が多いのも無理はないでしょう。

では、陶磁器の世界では、アールヌーボーをどう表現したのでしょうか。
それが、「柚下彩(ゆうかさい)」です。

柚下彩とは、釉薬の下に絵付けをして高温で一度に焼成(しょうせい)する技法です。(釉薬については、カリーニョ4コマコラム「器物語 釉薬って何の薬?」がとてもわかりやすいです)世界に先駆けてこれを1889年のパリ万博に発表したのが、デンマークのロイヤルコペンハーゲンです。

出典:ヤマザキマザック美術館公式ホームページ

顔料が高温の熱で溶けて、美しいグラデーションを演出しています。この何とも言えない、まるで藤田嗣治のような乳白色の色合いが、上の色量の小さい、淡濁色、というアールヌーボーの特徴をとらえていますね。

アールヌーボー以前の芸術は、主に王侯貴族など宮廷文化が発祥でした。それが、産業革命により中流階級層が厚くなると、庶民が文化のリーダーになっていくんですね。ミュシャのポスターが、アールヌーボーの代表作となるのもそれをよく表していますね。貴族の調度品でなく、ポスターという大衆の身近にあるものが、文化をリーディングしていく。
まさに、大衆が主役、というのがストレートに表現されているのが、アールヌーボーなのです。
アールヌーボー以降、教会(宗教)・宮廷文化が発祥という時代は終わりを迎え、アールデコ、モダニズムから戦後の現在に至るまで、芸術はすべて大衆が発祥です。そういう意味で、アールヌーボーとは、一つの大きな歴史の転換期でもあるのです。この転換期に人々がどのように考え、時代を感じ取っていったのか。私の興味は子供のころからこれにつきます。

今回のアールヌーボーを知るためのミュシャ編、いかがでしたでしょうか?ヴィクトリア時代の後半に起こった、パリでの文化隆興。それを5回シリーズでお届けしました。陶磁器を知るうえで、アールヌーボーを知っておくと鑑賞に深みがますのが体感してくだされば何よりです。

今後も、この時代について、読書会やコラムでいろいろな角度からとらえたいと思います。

 

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役 / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた古今東西の19世紀~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

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