【第22回】超簡単!アールヌーボーは「植物の流れるような曲線美」(3/5)

陶磁器を彩る美しいモノたち
ベルエポックで花咲くアールヌーボー
私の一番好きな装飾です

 

前回・前々回と、「カリーニョの知恵袋」コラムでミュシャ展のお話と、ミュシャを象徴するベルエポックについてお話しました。

現在、「みんなのミュシャ展」は、京都文化博物館で開催中です。(上下の画像は公式ホームページより)

京都文化博物館公式ホームページ

今回はその続きです。

ミュシャの話をするとき、「ベルエポック」というキーワードが出てきます。ミュシャの絵は、このベルエポックを象徴する絵だからです。

そして、もっと言うと、ミュシャの話をすると必ず出てくるのが、「アールヌーボー」です。ミュシャの絵は、このアールヌーボーを代表する絵だからです。

アールヌーボー(Art nouveau、新しい芸術。英語でいうニューアートですね)とは、19世紀末~20世紀初頭(1914年の第一次世界大戦以前ごろ)パリが中心として発展したヨーロッパの芸術様式のことです。

「ん?なんだか、ベルエポックの説明に似てない?」
そう思った読者のあなた、正解です。前回のベルエポックを復習しましょう。

ベルエポック(Belle epoque、美しい時代・古き良き時代)とは、19世紀末~20世紀初頭(1914年の第一次世界大戦以前)パリが反映した華やかな文化のことを指します。
いわゆる、「華の都 パリ」というイメージの時代ですね。

そうなんです。ベルエポックの時代が、そのまんまアールヌーボーの時代なんですね。

それで、ベルエポックと、アールヌーボー、何が違うかというと、範囲が違うんですね。
アールヌーボーというのは、建築・家具・インテリア・工芸品(もちろん陶磁器も含む)・絵画というアート領域(芸術様式)の名称です。
一方のベルエポックは、娯楽・スポーツ・電化製品などによるライフスタイル・社会規範・文学・芸術など、文化領域まで範囲が広いというのが違いです。ですから、ベルエポックの一つとして、アールヌーボーがある、と思っていたらいいでしょう。

アールヌーボーのコンセプトは、「用の美」

 

アールヌーボーのコンセプトというのは、ズバリ「用の美(use and beauty)」です。ただ鑑賞するものでなく、生活と密着した、使ってこその美である「応用芸術」「装飾芸術」であるともいえます。
このあたりのコンセプトは、アールヌーボーと同じ時期に隆興したウィーンのゼセッション(分離派様式。世紀末芸術の一種)と共通するところがありますね。(そもそも、広義では「アールヌーボー」の中にゼセッションも含まれています)

サロン(主に政府主催の権威的な展覧会)を訪れる限られた人々のためでなく、広く民衆のための芸術に奉仕できることをうれしく思う。…私が目指すのは金持ちのための芸術でなく、民衆にも手に届く芸術である。
『ミュシャ 生涯と芸術』より

というように、産業革命によって国民の主役が貴族でなく、民衆に移り変わってきている当時、民衆の、民衆による、民衆のための芸術という、まるでリンカーンばりの芸術の要望が非常に高まってきたのですね。

そういう時代の要請に応えたのが、アールヌーボーだったわけです。ミュシャの絵の多くは、広告用のポスターという大衆芸術です。手軽に手に入り、一般人みんなが芸術を楽しめる。まさしくポスターは「用の美」だったわけなのです。

アールヌーボーの特徴は、植物や昆虫の曲線美

 

アールヌーボー様式の特徴というのは、なんといっても「植物的で流れるような曲線」です。
植物のように柔らかく、優美な曲線を描いた文様が特徴で、フェミニン(女性的)、繊細、優美、幻想的、清純、古典的なイメージがあります。実際、植物や、昆虫をモチーフにしたデザインも多いです。
同じ曲線でも、アールデコ様式になると幾何学的な曲線となり、ちょっと雰囲気が違うのですね。こちらは、都会的、男性的、モダン、洗練のイメージがあります。

フェミニン(女性的)、優美、などをイメージしていくと、「じゃあ、同じように繊細でフェミニンで優美なロココ調(様式)と何が違うの?」と思われるかもしれません。

ロココ様式との大きな違いは2点です。

まず、発祥がロココ様式が貴族発に対して、アールヌーボー様式は前述の通り、民衆発である点です。

そして、様式の特徴としては、ロココ様式は「夢見る夢子ちゃんのメルヘン」。色調が華やかなパステルカラーで、どことなく貴族の退廃感漂う耽美(たんび。ちょっとエロスが入った、妖しげな美しさ)の雰囲気もかもしています。

ロココ様式を代表する陶磁器 アビランドのルーブシェンヌ

この食器は、こちらのページにてレンタルすることが出来ます。
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対して、アールヌーボーは色調が穏やかで、エロスの香りはあまり感じない清純な雰囲気です。どことなく「神話的ファンタジー」のイメージがありますね。これらのイメージに大きな違いがあると私は思います。

色調に関してもっと専門的にいうと、トーンの明度が違うんです。ロココ様式は色の明るい明色です。ピンク、白、エメラルドグリーン、ゴールド、水色などがコンセプトカラーです。対するアールヌーボー様式は、やや色の濁った(灰色を混ぜた)淡濁色です。くすんだイエローグリーン、モカ色、マリーゴールド色、オリーブ色、乳白色系の水色、などがコンセプトカラーです。

これらのアールヌーボーの特徴を踏まえて、次回はミュシャの作品を鑑賞してみましょう。

 

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役 / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた古今東西の19世紀~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

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