【第18回】タイタニック号の最高級食器は、ロイヤルクラウンダービー(6/6)

陶磁器を彩る美しいモノたち
最高級ホテル リッツばりのラグジュアリーレストラン「アラカルト」での食器

 

6回シリーズとなります「タイタニック号の悲劇を学び、エドワード朝の文化を深める」ためのコラム「陶磁器を彩る美しいモノたち」。前回5回目は、1~3等客船それぞれのタイタニック号の食事メニューを見ながら、エドワード朝(エドワーディアン。1900~1910年代)の文化を読み取っていきました。

最終回の今回は、いよいよカリーニョならでは!のテーブルウエアをご紹介します。

 

タイタニック号の最高級レストラン「ア・ラ・カルト」の全貌

 

タイタニック号には、それぞれ1~3等客船専用のレストランがありました。しかし、1等客船には、それだけでなく、1等客船専用レストランの、そのまた上をいく特別なレストランが存在していたのです。それが、ブリッジデッキレストラン「ア・ラ・カルト À la Carte」です。

営業時間は8時~23時まで。およそ140席。
入口右側にビュッフェ。フランスのウォルナット(クルミ)材のパネル、黄褐色のシルクのカーテン、青銅のひねりをきかせた丸柱、金彩とクリスタルのシャンデリア、ローズデュバリー色のカーペットなど贅を尽くしている。

ブリッジデッキレストラン「アラカルト」の位置を確認してみよう。

他の日替わりメニューの1~3等客船レストランと違い、船会社のホワイト・スター・ライン社が運営していたものでなく、ルイジ・ガッディというレストランマネージャーが運営するフランチャイズレストランでした。文字通り「アラカルト(単品)」メニューを、特別な食材を用いてフランス生まれのピエール・ルソーシェフが腕を振る、それは豪奢なレストランでした。

料理はガッディが修行したロンドンのリッツホテルを手本にして、舌の肥えた1等客船の乗客を満足させるための特別なメニューだったそうですが、残念ながら「ア・ラ・カルト」のメニュー表は残っていません。ダフ・ゴードン夫人はその喜びをこのように記しています。

「すべてにおいて素晴らしい。なぜだか、まるでリッツにいるような気分になるわ “The whole thing is positively uncanny. Why, you would think you were at the Ritz.” 」

実際にこのダイニングを「リッツ」と呼ぶ乗客も多くいました。

通常、1~3等客船すべての乗船料金には、食事の料金が含まれていました。前回の5回目コラムでもお話した通り、食事入りの運賃だと思うともう2~3等客船なんてコスパ抜群なのです。しかし、このレストラン「アラカルト」においては、別途食事代が請求されました。(ただし、1等客船専用のダイニングを使わず、あらかじめ「アラカルト」オンリーと決めていた場合、乗船料金から3~5ポンドが差し引かれました。)

それでも、決められた時間に食事に行かなくてはならないボリュームたっぷりの1等客船専用レストランより、気まぐれな時間に、欲しいものだけ食べられる「アラカルト」は1等客船の乗客から絶大な人気を呼びました。姉妹船のオリンピック号よりも席数を大幅に増席したにもかかわらず、常時「アラカルト」はお客でいっぱい。

いやー、その気持ち、わかります。
「もう、朝も昼もアフタヌーンティーも食べ過ぎでお腹いっぱい。また夕食にあの拷問のような品数のディナーなんて食べられないわ。ねえ、あなた。もう夜は簡単に『リッツ』で済まさない?私、1品のロブスターと、あとは適当にフルーツでもつまむくらいでいいわ…。」
「う…ん。そうだな。私も胃もたれしてるしな…。追加料金はかかるが、背に腹かえられん。」

こんな夫婦の会話が想像されます。1等客船の乗客ウォルター・ダグラス夫人の言葉です。

「昨夜、私たちはリッツで夕食を食べました。テーブルはバラとヒナギクで美しく装飾され、女性はキレイなサテンとシルクのドレスを着ていました。バイオリンはプッチーニとチャイコフスキーを演奏しました。ディナーは豪華でした。キャビア、ロブスター、エジプトウズラ、温室のブドウ、新鮮な桃…。夜は冷たく澄んだクリスタルの海でした。」

「アラカルト」の食器は、ルイ16世様式

そして、この華麗なるレストランに華を添えたのが、イギリスのロイヤルクラウンダービー社の食器だったのです。

すっきりとしたシンプルな金縁。そして、ゴールドの鐘のオーナメントを取り囲むように、月桂樹ガーランド(花輪)状に配されています。そして中心には、ホワイト・スター・ライン社のロゴがあしらわれています。これは「ルイ16世様式 Louis XVI style」ということが文献で書かれています。

この「ルイ16世様式」、いったいどんな様式?と思われるかもしれませんね。でも、要するにこれは「ネオクラシカル(新古典)様式」なのです。これまでカリーニョの教養コラムを読んでこられた読者なら、「ああ、なーんだ。新古典様式のこと。それなら、そうと書いてよね、紛らわしい。まあ、言われてみれば、確かにそうだ」と新古典様式らしさをこの一皿に感じてもらえることでしょう。

以前、「ベルばらはロココ(様式)」というコラムを読んでくださった方には「ルイ16世様式はロココ様式じゃないの?」と思われるかもしれませんね。
確かに、ロココ様式はルイ16世の父親世代であるルイ15世時代(ポンパドゥール夫人の時代)が一番のピークで、ルイ16世の時代になると、フランス革命とともに次第に新古典様式が隆盛してくるのですね。(そして、新古典様式のピークがナポレオン時代です。)それでも、まだまだ実際のところ、ルイ16世が頑張ってた頃は、(つまりマリーアントワネットが全盛期の頃)はロココ様式の文化であふれていました。ですから初心者向けには、ベルばら=ロココ、と捉えていて問題はないと私は思います。

マルタン・ニコラ・ドラポルト「トルコ風寝台」1770~1775年
脚の形や、白い絹地にバラの装飾など、上の「アラカルト」の椅子がこれをモチーフにしていることがわかる

ルイ16世の時代になってくると、新古典様式が徐々にはやり始め、調度品の中にも、ロココ様式と新古典様式の折衷案のようなものも見られ始めます。写真の「トルコ風寝台」などは、ルイ16世様式特有の独楽(こま)を象(かたど)った直線的で細長の脚、トルコ趣味(チュルクリ)、アカンサスの葉の彫刻などは新古典様式らしいですが、リボンやバラの花束、フェミニンで優美な姿はロココ様式らしさが表れていると思います。

ちなみにルイ16世の時代は、お隣イギリスでは、ウェッジウッドの創業者、ジョサイア・ウェッジウッドの時代とほぼかぶりますので、ジョサイアが好んだ新古典様式(ポーランドの壺が代表格)=「ルイ16世様式」というのは、頭になじみやすいかと思います。

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1等客船専用レストランの食器は、スポードを使用

一方、1等客船専用レストラン(ジャックとローズが食事したレストランですね)のほうでは、イギリスのスポード窯を使用していたといわれています。

スポードのカップ&ソーサー。真ん中には、ホワイト・スター・ライン社のロゴが見られる。

瑠璃色に金縁と、シンプルで気品あふれるタイタニック号1等客船のプレート。

ターコイズブルーが目に爽やかなこちらのスポードのプレートは、数が少なく、特別なパーティー仕様だったと思われる。

全6回にわたってお話してきた「タイタニック」特集コラムでしたが、いかがでしたでしょうか。映画、設備、沈没の悲劇、食事、食器…と多岐にわたり、いろんな角度でタイタニック号について存分にお話してきたかと思います。内容的には、タイタニック号についての日本語の書籍を1冊読むよりも、バラエティーに富んで内容盛りだくさんだと自分で思いましたね。

そして私自身も、学生の頃のめり込んでいたタイタニック号のことを改めて研究するいい機会になりました。一番の驚きは、陶磁器を知ることで、タイタニック号を知ること、もっといえばエドワーディアンの人々文化の深みが増した、ということです。私自身が、「陶磁器を知ることは、文化教養を知ること」を実践しているわけです。
ぜひ、皆さまも陶磁器を知る喜びを感じてください。知れば知るほど、今まで知っていた歴史、文学、音楽、美術、映画に深みがどんどん増してきますよ。これからも、共に学びましょう!

 

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役 / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた古今東西の19世紀~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

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