【第17回】タイタニック号 その華麗なる食事メニュー(5/6)

陶磁器を彩る美しいモノたち
長い船旅の最大の楽しみ
食事メニューからエドワーディアンの文化を読み取る

 

6回シリーズとなります「タイタニック号の悲劇を学び、エドワード朝の文化を深める」ためのコラム「陶磁器を彩る美しいモノたち」。

第3,4回目は、歴史上のタイタニック号の悲劇について、あの事故がなぜ多くの人々に衝撃を与えたか、そしてそこから読み取れる多くの教訓についてお話ししました。

今回は、一度しか味わえなかったタイタニック号の食事メニューを見ながら、エドワード朝(エドワーディアン。1900~1910年代)の文化を読み取っていきましょう。

 

タイタニック号の食事メニューその①
一等客船の華麗なるディナー

 

タイタニック号の一等客船は、一体どんなメニューだったのでしょうか。
品数は、10~11品と今のフルコースよりも大変充実しています。上流階級は胃袋も丈夫でないと乗り切れないですね。

タイタニック号一等客船のメニュー(注:これはランチ用)沈没前日の4月14日用

(1)オードブル(前菜)
・カナッペ提督風
・牡蠣のロシア風(生牡蠣)

【白ボルドー、白ブルゴーニュ、シャブリ】

映画では、このカナッペにキャビアをのせるシーンで、ローズの母ルースがこのカナッペを食べながら意地悪そうに「で、ドーソンさん(ジャック)は、いったいどちらにお住まいなのかしら?」と聞く。生牡蠣を船上で提供できるということは、それだけ冷蔵施設が充実しているという証拠。今では珍しくないですが、当時生牡蠣は富の象徴だったでしょう。

(2) スープ(どちらか1つ)
・コンソメスープ
・大麦のクリームスープ

【マデイラ、シェリー】

(3) 魚料理
鮭のムースリーヌソース

【ライン、モーゼルの辛口ワイン】

ムースリーヌとは、卵白やクリームを使って柔らかく滑らかなソースのことです。ムースに近いですが、ムースよりは柔らかいです。

(4)アントレ(1つを選択)
・チキンのリヨネーズ風
・牛フィレステーキ リリ風
・南瓜(かぼちゃ)のファルシ(詰物料理)

【赤ボルドー】

ファルシとは、主にミンチ肉とハーブを合わせたものを、野菜をくりぬいて詰めてオーブンで焼いた料理です。私も大好き。日本で一番よく知られているファルシは、「ピーマンの肉詰め」でしょう。

(5) 後皿(1つを選択)
・仔羊のミントソース添え
・ローストダック(鴨)カルバドス・グレース アップルソース添え
・牛サーロインステーキ 森林風ソース
【付け合わせ】
・ジャガイモのシャトー風
・グリーンピースのタンバル ミント風味
・ニンジンのクリーム煮

【赤ブルゴーニュ、ボジョレー】

映画では、昼食シーンでキャル(ローズの婚約者)が勝手にローズ用に子羊のミントソースを注文します。

(6)パンチorシャーベット
・ローマ風のパンチ
・ラム酒入りシャーベット

これはいわゆるお口直しの1品でしょう。

(7) ロースト
・雛鳥のロースト クレソン添え

【赤バーガンディ】

(8)サラダ
アスパラガスのサラダ シャンパーニュ・サフラン風味ヴィネグレットソース

(9) 冷製料理(1つを選択)
・冷たいロースト
・骨付きの七面鳥
・フォアグラとセロリのパテ

【ソーテルヌ、ラインの甘口ワイン】

(10)デザート
・ウォルドルフ・プディング
・桃のシャルトルーズゼリー
・フレンチバニラアイスクリーム入りのチョコレートエクレア
・フレンチバニラアイスクリーム

【モスカテル、トカイ、ソーテルヌなどのデザートワイン】

(11) コーヒー・紅茶
・チーズと果物
・コーヒーか紅茶

【デザートワイン、シャンパンなどのスパークリングワイン】

映画では、洋ナシなどの果物がワゴンに乗って登場してきます。また、メニューにはありませんが、映画のようにパンももちろんついていたことでしょう。イギリスの料理は美味しくないので有名ですが、これはフランス料理のようですね。メニューだけでも美味しそうです。ソースや作り方などは、現在のフレンチとほぼ変わらないことができていることが伺えます。下ごしらえも大変なものだったでしょう。食堂の従業員たちは交代で24時間体制だったそうです。

タイタニック号の食事メニューその②
二等客船の引けを取らない豪華メニュー

 

一等客船を旅客機にするとファーストクラスですが、二等客船のビジネスクラスばりに、2等客船のメニューも豪華です。

タイタニック号2等客船メニュー 沈没前日の4月14日用

【4月14日タイタニック号最後のディナーメニュー】

1)スープ
タピオカ入りコンソメスープ

今大流行のタピオカをコンソメに入れるという、大胆な発想の1品です。110年前もタピオカが西洋人に食べられていたとは知りませんでした。

(2)魚料理
・鱈のシャープソース(アンチョビクリームソース)

(3)肉料理(おそらく1つを選択)
・ホットドッグ
・チキンカレーライス
・ローストターキー クランベリーソース添え
・子羊のロースト ミントソース添え
【付け合わせ】
・グリンピース
・かぶのピューレ

(4)主食
・ライス
・ベークドポテト

(5)デザート
・プラムプディングのスイートソース添え
・ワインゼリー
・ココナッツサンドイッチ
・アメリカンアイスクリーム

(5)コーヒー・紅茶
・ナッツと果物
・チーズ
・ビスケット
・コーヒー

私なら、これで十分です。これだけの食事が食べられて、イギリスからアメリカまでの乗船料金が15万円はコストパフォーマンス最高です。

タイタニック号の食事メニューその③
3等客船もなかなかのもの!
エコノミークラスをはるかに凌(しの)ぐ豪華メニュー

 

労働者階級・移民で構成された3等客船でも、食事内容は決して粗末なものではありません。昨今の旅客機エコノミークラスやLCCとを考えてみても、朝・昼・夕・夜の1日4食のボリュームはなかなかのものだと思います。

 

階級社会である当時のイギリスでは、労働者階級の一日の過ごし方は上~中流階級とは異なり、お昼が一番の食事のメインでディナーと呼ばれ、ティーと呼ばれる夕食はそれより軽いものでした。(ちなみに、夏目漱石の英国留学中のメニューを見ると、彼は中流階級の家庭に下宿していましたが、中の下だったのか、同じように昼のメニューがメインになっていました。)

タイタニック号3等客船メニュー 沈没前日の4月14日用

(1)朝食

・オートミールポリッジ(粥)&ミルク
・燻製ニシン 皮付きローストポテト添え
・ハムエッグ
・焼き立てパン(バター付き)
・スウェーデンパン(ライ麦パン)
・マーマレード
・コーヒーor紅茶

イギリス式ブレックファストで、パンとコーヒーがメインのアメリカ式より豪華です。私なら、これで朝からお腹いっぱいです。

 

(2)昼食(ディナー)【4月14日タイタニック号最後のディナーメニュー】

・ライススープ
・焼きたてパン
・ビスケット
・ローストビーフ グレービー(肉汁)ソース添え
【付け合わせ】
・ゆでたジャガイモ・スイートコーン
・プラムプディング スイートソース添え
・果物

3等客船最後のディナーはローストビーフだったそうです。75%の人々がまさに最期の晩餐となったわけです。亡くなった方々が温かく美味しいローストビーフを最期に食べられたのが、せめてもの慰みでしょうか。

 

(3)夕食(ティー)
・コールドミート(ローストビーフやチキンなどのこと)
・チーズ
・ピクルス
・焼きたてパン(バター付き)
・煮込みイチジクとライス(デザート)
・紅茶

 

(4)夜食

・グルーアル(粥)
・ビスケット
・チーズ

毎日これだけ食べられたら、お腹いっぱいですね。これで、乗船料金が2~4万円です。現在の私たちのほうが、ひょっとするとエドワーディアンの人々よりも経済的には苦しいのではないかと錯覚してしまうかのような、ありえないコスパです。

私は、このメニューを見るだけで当時の人々の旅路のワクワクした気分を想像します。旅行中の食事というというのは、本当に楽しみの一つですよね。非日常の空間で、アメリカンドリームを夢見る3等客船の乗客も、旅行がまだまだ一般的でなかった1~2等客船の乗客にとっても、まっさらのダイニングテーブルやピカピカの食器で頂く船上の食事は、何事にも代えがたいものだったと思います。

※ちなみに、この食事メニューですが、特に一等客船メニューは文献によってかなり違いがあります。日本語の文献や、英語のウェブサイトを確認しながら、総合的に判断しました。2~3等も、日本語の書籍やネットの文献はかなり違いがあり、最終的にメニュー表より判断しました。
より正確な文献が見つかり次第、少しずつ訂正していくかもしれません。ご了承ください。

次回は、いよいよ食器(テーブルウエア)の登場です。

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役 / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた古今東西の19世紀~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

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