【第14回】映画「タイタニック」回想 20世紀末最後の大ヒット作(2/6)

陶磁器を彩る美しいモノたち
筆者がベスト10に入れる映画「タイタニック」
大ヒットの魅力の秘密に迫ります

 

タイタニック号の悲劇。それは人類の進化へのあくなき追求に一石を投じ、20世紀のテクノロジーに警鐘を鳴らした大きな事件です。タイタニック号のことをよく知っておくことは、幅広い教養文化を学ぶうえでも必要なことだと私は考えています。
また、ヴィクトリア女王の息子の時代であるエドワード朝(エドワーディアン。1900~1910年代)を考えるとき、エドワード朝の粋(すい)を結集させたタイタニック号の設備や風俗文化はとても参考になります。今回、「陶磁器を彩る美しいモノたち」コラムでタイタニック号についてのお話を6回シリーズでお伝えしようと思います。
2回目の今回は、映画「タイタニック」について、その魅力、どこがどう面白いのかを更に深堀りします。

 

タイタニック号の悲劇とは?

さて、ここで前回の復習です。いわゆる「タイタニック号の悲劇」というのは、今から100年ほど前の1912年、夢の豪華客船タイタニック号がイギリスからアメリカのニューヨークまでの大西洋処女航海中に氷山に衝突(注:現在温暖化で大西洋に氷山はありません)、沈没し、乗員乗客約2200名のうち約1500名が命を落とす当時史上最大の客船海難事故のことです。

映画「タイタニック」はなぜすごいのか

その③王道の物語&キャスティングと、伏線盛りだくさんの脚本がすごい

1996年(現代)のローズ。本編はローズの回想によって紡がれる。

物語が、これまた本当によくできています。
この話は、1996年(現代)とタイタニック号沈没当時の1912年(過去・本編)を行ったり来たりする話です。本編というのは、100歳になったヒロインローズが回想する、ということで、ローズの脳内記憶から蘇るタイタニック号の物語なのです。

貧しい絵描きのジャック(ヒーロー)が、アメリカンドリームを夢見てタイタニック号の3等客船に偶然乗り込み、封建社会の人形(象徴)と化した17歳の上流階級のローズ(ヒロイン)と真剣な恋に落ちます。

当時はレオ様旋風を巻き起こしたイケメン絶頂期のレオナルド・ディカプリオ22歳と、陶器人形のように美しかったケイト・ウィンスレット21歳の主演の二人は、本当に王道の美男美女でした。

映画「タイタニック」大成功の理由の一つに、本来は個性的な役柄しか引き受けない演技派俳優であるディカプリオを、22歳のイケメン絶頂期に、超がつく大型のロマンス(恋愛)ハリウッド映画にキャスティング出来た功績があるでしょう。(その違いは、例えば同じような個性的役柄を選ぶ演技派俳優であるジョニー・デップと比べるとわかります。彼は、イケメン絶頂期であった20代前半に、ディカプリオのような王道ロマンスハリウッド映画に出演していないので、その美貌と演技力をロマンス用で観ることができませんでした。とても残念。)
それによって、ヒーロー役がたんなる美男子のお飾り的な王子様でなく、ディカプリオという、素晴らしい演技ができるホンモノの役者さんによって、この映画の魅力が最大限に発揮できたのです。

EMIKO
EMIKO

それにしても、最近の映画で主演がハタチ前後のヒーロー・ヒロインって少なくなってないですか?映画業界も、ハリウッド俳優たちもどことなく高齢化を感じるのは私だけでしょうか。個人的には、最近のハリウッドでも、こういったハタチ前後の男女の、若く美しさがピークの演技派俳優を使った恋愛映画が見たいものです。

ストーリー的にも第一級品で、これほど王道の恋愛物語を、きちんと奇をてらわずに王道に書く、っていうのは案外少ないような気がするんですね。作家としては、どうしても個性を出したくて、奇をてらいますから。でも、やっぱり大衆は王道が好き。私も好きですよ。その辺をよくキャメロン監督が興業的にわきまえていたな、と思うのです。

それで、実はこの作品、本当に素晴らしい伏線や暗示が随所に現れているのです。言葉のウイットしかり、小道具や、セリフ、登場人物の行動しかり。いや、でもこれを話し出したら本一冊くらい書けそうなので、泣く泣く割愛します。(いずれ、単発的にコラムに紹介したいですね)

ひとつだけ、謎かけのような印象的なセリフをご紹介しましょう。
ヒーロー役のフルネームは、ジャック・ドーソン。ヒロイン役のフルネームは、ローズ・デウィット・ブーケーターです。しかし、冒頭(プロローグ)段階の現在(1996年)のセリフで、ローズの紹介をこのようにしています。

「おれは1920年代にさかのぼって、ローズの足跡をたどったんだ……ローズはロスで、女優をやっていたんだ。いいか、女優だぜ。名前は、ローズ・ドーソン。それからカルヴァートっていう名前の男と結婚すると…」

そして、タイタニック号でローズが切羽詰まって入水(投身自殺)しようとしたとき、ジャックが寸でのところで救出するシーンがあります。二人が初めて出会う、衝撃のシーンです。そこに、

「僕は、ジャック。ジャック・ドーソンだ」「お会いできてうれしいわ、ドーソンさん」

というセリフがあります。冒頭のシーンをよく覚えている観客は、「ええ!?ってことは、ジャックはローズと結婚したの?でも、カルヴァートという男の人と結婚?どういうこと?」と一瞬混乱状態に陥り、がぜんこの二人の関係にのめりこみます。いや、私も思いましたよ。「あ、二人は結婚するんだ!身分の差を超えて、結ばれるんだ。」と。にくいですねー、この伏線。

しかしながら、物語の終盤に、ローズが、「ローズ・ドーソン」になった本当の秘密が判明します。それは、私の予想を裏切るものでした。ですが、ローズが「ローズ・ドーソン」になったことで、新たなステージに移ったのです。そういう意味でとても重要な伏線なのですね。これはほんの一例ですが、こういうのが随所に現れているのがこの映画の魅力です。

その④カメラワークが神がかってすごい

世の中には、「神がかり的名作映画」というのが時々出てきます。
・キャスティング&演技
・脚本(ストーリー)
・音楽
・セット&小道具
・映像美
これらが全て相乗効果を出し合って、非の打ち所がないような作品です。

これらの中で、「映像美」、特にカメラワークの部分は、普段一般観客が意識していない部分だけにとても重要です。
本当に素晴らしい傑作というのは、このカメラワークのカメラという意識がなくなる、完全に観客の目となる作品だと私は思います。どういういことかというと、カメラワークが、観客の呼吸、瞬き、目のフォーカス(焦点)が完全に一体化しているんですよ。

普段、観客は意識していませんが、映画の画像というのは、アップになったり、バストショット(上半身が見えた画像)になったり、俯瞰(ふかん、ハイアングルのこと)やあおり(ローアングルのこと)になったり、いろいろあります。それをその時の物語の最適な角度で撮影しなければ観客がその物語に「入って」いけません
例えば、観客が主人公の表情を読み取りたいときに、ちゃんとアップになって、全体の風景がみたいときにちゃんとズームアウトしている。無意識に、なんだかパン(画面の切り替え)したいなーと思った瞬間に、瞬きしたらちゃんとパンしてあるとーーたまにそういう阿吽の呼吸が最高に合っている傑作があって、もうそのカメラワークには感動ものですよ。

最近私が最もわかりやすい例だとおもったのが、宮崎駿の「ルパン三世 カリオストロの城」です。他のルパン三世の映画を見てから、「カリオストロの城」のカメラワークを意識して一度観てください。
私もこの夏、ある別のルパン三世の映画を見ました。「うわー、どうしてここアップにするかなあ、なんだか見てて息苦しい。」「いやここはもっと俯瞰にしてほしい。よくわからない」「うーん、ここは逆に人物を小さく映しすぎ。表情がもっと見たい」など、カメラワークに違和感続出。わざと個性的な画面を狙ったのかもしれませんが、ちっともストーリーに集中できないんですね。

それで、次に「カリオストの城」をみて、カメラワークに鳥肌立ちました。なんでこんなにも、宮崎駿という人は、人々が望む「目線」の感覚がわかるんだ、というような、ものすごくわかりやすいカメラワークなんです。観ていてて、ぜんぜん負担がない。あえて奇をてらわず、真っ正直に観客が見たいなと思ったようにカメラが動いてくれるから、観客はカメラを全く意識せず、物語の中にぐんぐんのめり込んでいけるんですね。

ラストシーンカメラワークも、とても見やすい工夫がされています。やや斜め上からの俯瞰で全体像がよくわかる。

音楽に完全にマッチしたこの有名なシーンは、名台詞と、声優の演技と、カメラワーク(この2画面のパンのタイミングが絶妙)が四拍子そろって素晴らしいシーンになっています。

そういう点で、「タイタニック」もそうなんです。抜群のカメラワークですよ。カメラワークだけで感動するってなかなかありません。
ラブロマンス的視線のカメラ使いと、緊迫する沈没シーンを描いたパニック映画ならではのカメラワークを、ちゃんと使い分けている。ライティング(光)の使い方も最高で、ライティングだけでも感動できます。情緒豊かに、でも冷静に、それでいて奇をてらってない、真っ正直な、観客にやさしいカメラワークです。個性的な映画美である映画『女王陛下のお気に入り』のカメラワークとは全く違います。

臨場感あふれるように考え抜かれたカメラワーク
時計の針が、沈没直前の深夜2時20分前であることに注目

大衆迎合したカメラワークなんだけれども、でもそれは本当のところ、難しいんですよ。王道のストーリーを観客にうけるように書くくらい難しい。観客の呼吸に上手に合わせたカメラだからこそ、あれだけ話の中にのめり込めるのです。

個人的には、はやり現在(1996年)と過去(本編)とを行き来するときのモーフィング転換(場面転換の映像用語)やフェード(場面転換の映像用語)が素晴らしいと思います。クライマックスの2分間に出てくるフェードはもう、宮崎駿のじゃないですが、鳥肌ものですよ。

ローズのベットサイドから幻想の始まりのように闇から海底へ移るモーフィング転換から、水中の浮遊感的なカメラワーク、そして海底に沈む朽ち果てたタイタニック号の船体が見えたかと思うと、まばゆい光と共にそれが見る見るうちに復元され、在りし日のタイタニック号へと蘇る…このフェード時点で、いつの間にかカメラが「水中カメラ」から、「人間の目線」に代わってるんです。ここでまず鳥肌が出てくる。

そして扉が開かれ、乗客乗員の皆が「お帰り」というように歓迎し、あの愛しい人が待つ大階段へ誘(いざな)われる。ここの伏線も効いています。初回(物語中盤)では、階段を降りていたのが、今度は階段を上る。そう、デジャヴというか、リフレインです。
そして「人間の目線」の持ち主の手が現れて、ここで初めて、待ってましたかのように阿吽の呼吸でパンして、「人間の目線」がかつてのうら若き女性、ローズだということがわかるのですね。そして待ち受ける大団円。ここの数秒間は、目くるめくようなゆるやかな回転を帯びたカメラが最後に天井にあおり(ローアングル)をうけて、光のただなかに抜けるようにしてフェードアウトするという、歓喜と高揚感いっぱいの素晴らしいカメラワークです。

時計の針が、沈没の2時20分であることに注目。
脚本では、ワルツが流れ、ローズが階段を下り、ジャックに両腕に抱きかかえられる、とあった。
ワルツでなく、甘く切なく、どこか郷愁を感じるアイリッシュ音楽に、ローズが階段を上る、キスをする、と完成版では3つの変更点がなされた。どちらが良いかは、一目瞭然。

タイタニック号は沈没して、ジャックも運命を共にしてしまったのに、ハッピーエンドで終われるこの王道の恋愛映画。しかし、ご都合主義のハッピーエンドだとは到底思わせない凄(すご)みを感じさせられるのは、これまでの綿密なストーリーと、この美しい映像美と、心揺さぶられるような郷愁のアイリッシュ音楽と、役者の演技力のおかげです。

 

その⑤20世紀末の「世紀末芸術的」だった映画「タイタニック」

 

この映画が上映されていた時代は、1911年にタイタニック号の沈没から85年ほどでした。
そのため、映画に登場する老女ローズ(ヒロイン)のように、かろうじて当時の生存者が存命だった(しかも赤ん坊でなく、事件の記憶がある人)ギリギリ最後の時代だったんですね。だから、遠い昔の歴史ではなく、事件のリアルさがひしひしと伝わる最後の年代だったのですよ。
2020年も近い現代では、当時の沈没からの生存者はおそらく全員この世にはいませんから、「タイタニック号の沈没」は、完全に歴史の一部となってしましました。
今あの時の映画「タイタニック」のようなリアル感はもうだせません。

1997年の当時、20世紀の世紀末感が世界中に漂っていました。
当時大ヒットしたジブリ映画「もののけ姫」も今見れば日本の20世紀末芸術ですし、この映画「タイタニック」も、振り返ればやはり、世紀末感が根底に漂っています

「このままでいいのか」「インターネットという新しい技術は、我々を幸福に導くのか、それとも不幸にさせるのか、今の段階ではわからない」という…まさしく世紀末感。

でも、この2人の巨匠の勘は当たっているんですね。21世紀に入り、9.11のテロ事件とインターネットで本当に世界は一変しますから。

2019年現在のレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレット。
過酷な撮影の末、自身の看板商品となった二人は、今や弱肉強食の映画業界を共に戦う戦友のような大親友。
いつでもお互いの味方です。結婚はしなかったからこそ、20年たった今でも互いを尊敬しあい、対人間として「私たちは愛し合っている」と公然と言い合える二人なのだと、私は思います。

映画「タイタニック」は、当時の最新のデジタルCG技術を駆使して作られた作品ですが、振り返ってみれば、アナログで大成功を収めた最後の映画でもあったのだと、私は思います。それが、1912年に最新の技術で作られたタイタニック号の悲劇とダブルイメージになってくる。重なるんですよ。映画上映の1997年と事故の1912年、両方ともが時代の転機となった。
だからこそ、あれだけの大ヒットとなった。運命ともいえるような時代のうねりを感じる作品です。

【このページの文章を書いた人】 玄馬 絵美子(げんば えみこ)

株式会社アリベ 取締役 / 薬剤師 カリーニョを運営する三姉妹の長女。薬局・病院で薬剤師として勤務後、現在、子育て中のアラフォー主婦。株式会社アリベでは受注・財務面、そしてカリーニョでは趣味で研究してきた古今東西の19世紀~20世紀初頭の文化・様式・芸術の世界を紹介するコラム執筆を担当。 【これまでの実績】 全国のMR経験薬剤師が作る転職応援サイト『MRファーマシスト』にてマネーコラム連載。 新聞の文芸欄掲載多数。掲載作品はこちら(個人ブログ「私の読書遍歴」)

 

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